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Vol.7 『美女と野獣』 by藤田 彩乃

こんにちは。藤田彩乃です。突然ですが私、何を隠そうディズニー作品が大好き。英語はディズニーアニメで覚えたようなものです。特に東京ディズニーランドへの思い入れは強く、メインストリートを歩いているだけで、スキップしたい衝動に駆られます(実際にはスキップしませんが)。

たとえディズニー社が蒸気船ウィリーの著作権を死守するために、金にものを言わせて、著作権の有効期限を延長させようが、関西の純粋無垢な子供たちが力を合わせて学校のプールの底に書いたミッキーマウスを、著作権侵害だとして塗り潰そうが、密かに兵器製造会社とグルになっていようが、"ウォルトが生み出した作品とそのすばらしい世界に罪はない!"と都合のいい理論を支えに、子供の頃からずっとディズニーを愛し続けています。

そんな私がオススメするのは「美女と野獣」。ディズニーの最高傑作です。事実、アカデミー賞作品賞にノミネートされています。残念ながら受賞には至りませんでしたが、これはアカデミー賞史上最多32回の受賞を誇るあのウォルトでもなし得なかった、アメリカのアニメ史上初の快挙です。

ストーリーはいたってシンプルです。魔女によって恐ろしい野獣に変えられてしまった傲慢な王子。その魔法を解くには、魔法のバラの花びらの最後の1枚が散るまでに、王子が心から人を愛し、愛されなければなりません。そこへ町一番の美人であるベルがやってきて...。果たして魔法は解けるのか?というディズニーらしいお話です。

見どころはCGをうまく融合させたスケールの大きな映像。
主人公ベルと野獣が、城の大広間でダンスするシーンは何度観てもウットリします。ターンした時に揺れるドレスの動きはまるで本物。カメラワークもアニメとは思えません。映画館で見ると感動は倍増。現実逃避にピッタリです。それ以上に私の心をとらえて離さないのが音楽。有名な主題歌「美女と野獣」をはじめ、美しいナンバーが満載です。私のお気に入りは「Something There」と「Be Our Guest」。文句ナシに素晴らしい。

音楽を手掛けたのはアラン・メンケンとハワード・アシュマンの黄金コンビ。不調が続いたディズニー映画を窮地から救ったのは彼らだと言っても過言ではありません。彼らが始めてタッグを組んだのは、ご存知「リトルマーメイド」です。映画は世界中で大ヒットを記録し、彼らはアカデミー主題歌賞とオリジナル作曲賞を受賞。ディズニー第二次黄金期の幕明けと称されました。そしてディズニー第二次黄金期を決定付けたのが本作「美女と野獣」です。ちなみに第一次はウォルトが実際に製作に携わった時代。「白雪姫」や「眠れる森の美女」、「バンビ」や「ピノキオ」など数々の名作を世に送り出しています。

しかし、本作と次回作「アラジン」を制作している最中に、アシュマンがエイズで帰らぬ人となりました。そのため本作はアシュマンに捧げられていて、エンドクレジットにはこんな言葉が添えられています。

"To our friend Howard, who gave a mermaid her voice
and a beast his soul, we will be forever grateful."

人と違うというだけで疎まれる野獣の心境は、エイズというだけで白い目で見られるアシュマンと重なるという分析もあるようです。真相は分かりませんが、死を目の前にしていたアシュマンが、持てる力のすべてを捧げた渾身の作であることは確か。制作チームの気持ちを考えただけで涙が出てきます。ちなみに彼の死後「アラジン」で作詞を引き継いだティム・ライスは彼のスタイルを継承し、見事に作品に反映させました。そして生まれたのが結婚式の定番ソング「A Whole New World 」です。長くなるので「アラジン」の話はまた今度にして、話を本作に戻しましょう。

さらに注目していただきたいのは、脇を固めるキャラクターたち。野獣に戦いを挑む傲慢なガストンと腰ぎんちゃくのル・フウ。ろうそくに姿を変えられた陽気な給仕のルミエール、時計の姿になっている几帳面な執事のコグスワース、やさしいポット夫人とかわいいチップ転・・・どれも愛すべきキャラクターばかり。チップ役の子役があまりにもかわいくて、制作陣が急遽チップの出番を増やしたとか。アフレコではなく、台詞や音楽を先に収録して、それに合わせて絵を描くアメリカならではのエピソードです。

ちなみにブロードウェイ版も圧巻です。映画にはないシーンや曲もあり、登場人物の感情がより豊かに描写されています。衣装もセットも豪華。サントラを聞くだけで鳥肌が立ちます。現在日本では上演されていませんが、機会があったらぜひご覧になってください。


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『美女と野獣』
制作: ドン・ハーン
製作総指揮: ハワード・アシュマン
脚本: リンダ・ウルバートン
作詞: ハワード・アシュマン、アラン・メンケン
製作年: 1991年
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