日本映像翻訳アカデミー

最新ニュースアーカイブ

映像翻訳者 アーロン・ドッドソンさんインタビュー 前編
洗練された英文を書くために必要なスキルとは?

 
映像翻訳はただ、意味が伝われば良いというものではありません。映像翻訳者には素材となる言語に対する知識はもちろん、アウトプットする言語にも磨きをかけることが求められます。映像翻訳を学ぶ皆さんは、すでに日本語表現力の大切さを実感していることでしょう。日英翻訳にも同じことが言えます。英語を得意とし、映像翻訳を学んでいる皆さんは、英語のネイティブが見ても違和感のない英文を書ける自信がありますか?

日本映像翻訳アカデミー(以下、JVTA)では、英語表現力強化(英語クリエイティブ・ライティング)コースを開講しています。そこで今回はこのコースの主任講師であり、自身もフリーの映像翻訳者として活躍されているアーロン・ドッドソンさんにこのコースの概要と洗練された英文を書くためにはどんなスキルが必要なのか、お話を伺いました。


●まず、英語クリエイティブ・ライティングコースの概要と目的を教えて下さい。



この講座の目的は、fiction writingといったいわゆる英語で創作文(物語)を作ることではありません。英日の翻訳でも同じことが言えますが、媒体によってクライアントが求めるものは変わってきますよね。しかし、母国語ではない言語でその使い分けをするには、相応の知識とテクニックを学ぶ必要があります。そこで、このコースでは的確でフレキシブルな英語表現を習得することを目的とし、スタイルやマナー&トーンの使い分けと同時に、表現の背景にあるロジック(考え方)を学んでいきます。簡単に言うと「伝えたい情報(素材)を英語にする際、どう味付けをするのかを考える」といったところでしょうか。

このコースは基本的に英語で行われます。全10回のクラスでは、毎回事前に課題が出され、授業中には各自の課題について全員で検証していくという形式となります。

●書き分けについて、より具体的に教えて頂けますか?



例を挙げてみましょう。下記の3つの文章はいずれも雪に覆われた木々をイメージして書かれたものですが、ターゲットの想定によって違うニュアンスとなっています。

?Snow and ice cover the trees in late winter. Most animals hibernate or migrate south during this season, leaving the forest empty.

?As winter reaches its zenith, snow and ice turn the area into a crystalline forest. Animals find warm shelters to sleep through the season, while birds migrate south, creating a mysterious serenity.

?In the depths of winter, bitter cold shrouds the forest in ice. Animals huddle in what shelter they can find, and birds flee for warmer climes, making the area seem bleak and desolate.


(この3文の日本語訳例)
冬が本格化すると、森の木々は雪と氷に覆われます。多くの動物は冬眠に入り、鳥たちは暖かい南へと一斉に移動するため、この時期、森は閑散としています。



?は事実のみをシンプルに表現しています。一般的な新聞の読者が想定されています。新聞記事は主観や形容詞を省き、事実を正確に伝えることが求められます。同じ新聞でもスポーツ紙ならもっとカジュアルな表現を使っても許されると思います。

?は雪をポジティブに捉えた一文で、自然の素晴らしさなどを伝えようとしています。例えば、雪の多い観光地の広告やガイドブックなどに掲載されるような表現といったところでしょうか。crystallineなど、審美的なニュアンスを含んだことで、美しく輝いた銀世界を想像させますね。

?は雪に対してのネガティブなイメージに基づいたものです。映画やドラマの1シーンで寒々とした大自然の中で寒さに凍えながら無事に家路につくことばかりを考えているといった場面が想定されています。

東京のように雪が珍しい場所では、白く降り積もる雪は時にワクワクさせてくれますが、厳しい寒さの雪国の人にとっては、厄介な存在となります。つまり、映像翻訳者は、この文章が誰に何をどのように伝えたいのかを常に考え、目的に合ったマナーやトーンの英文をつくらなけらばなりません。そのための技術を磨くのが、クリエイティブ・ライティングコースなのです。

●一つの日本語素材があった場合、お手本となる英文は媒体やターゲットとする視聴者や読者によって変わってくるんですね。



そうです。ですから、どんな英文がベストかは一概には言えません。洗練された英文を書くためには、まずターゲットやその文章の目的、どんな効果を期待するものなのかをしっかり見極めることが大切です。しかし、あらゆる素材に取り組むことで自らその違いなどに気づかなければ、目的によって書き換えるという段階までは到達できないんですね。講義ではこういった視点や、言葉の使い方、リサーチの仕方などを含め、実践的に対応できるように、トレーニングをしていきます。

例えば、先日、私が担当した、ある仕事の素材にiPhoneのアプリがありました。『仮面ライダー』と『ハローキティ』という2つの異なるバージョンを翻訳する仕事です。搭載された機能はどちらも同じですが、アプリの説明にはそれぞれのキャラクターを見極め、それに見合った表現をする必要がありました。

『仮面ライダー』の場合
This program will assist you.

『ハローキティ』の場合
This program will help you.
This program makes your day better.


いかがですか? 同じ機能の解説でも言葉から受ける印象はだいぶ違いますよね。こんな風に使い分けるためには、まず、蓄積された語彙や表現の数(active vocabulary)が必要になります。こうした下地がないと、同じ表現ばかりを繰り返してしまうため、意味は通じても洗練された印象からはかけ離れてしまいます。

また、映画などの会話を英訳する場合はその話し手のキャラクターに合った言葉づかいや表現をすることが求められます。例えば、ある場面で粗暴な性格の男と、弁護士などの会話があった場合、そのキャラクターにあった言葉づかいではないと、観ている人は違和感があり、物語に感情移入できませんよね。英語でも同じです。日英の映像翻訳者にはこうした書き分けができるスキルは必至となります。

次回の後編では、日本人が英文を書く際に陥りやすい落とし穴などについて、引き続き、アーロン・ドッドソンさんにお話を伺います。お楽しみに!

後編はこちら
http://www.jvtacademy.com/news/?id=353

英語表現力強化(英語クリエイティブ・ライティング)コースhttp://www.jvtacademy.com/chair/course5.php
一覧に戻る