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LA在住の映像翻訳者 森マサフミさんインタビュー(後編)
QCや映像翻訳の経験を活かして“ハリウッド本”を執筆!
皆さんが普段何気なく鑑賞しているDVDやBlu-ray。翻訳作業後にパッケージ化され商品として発売される前に、クオリティコントロール(QC)という作業があることをご存じですか? 前回は、大手映画配給会社が手がけた作品を収録したDVDやBlu-rayのQCを担当している森マサフミさんにその作業内容についてお話を伺いました。現在ロサンゼルス在住の森さんは、日本映像翻訳アカデミー ロサンゼルス校の第1期修了生。QCのほかにもフリーの映像翻訳者として活躍する一方、映画に関する書籍の翻訳や執筆も手がけるなどLAを拠点に幅広く活躍されています。2月11日には森さんが執筆した書籍『ハリウッドを笑い飛ばせ! 映画が面白くなる業界ウラ話』が発売されたばかりです。後編では、3DやBlu-rayの普及がQCの仕事に与える影響や、QCの経験から映像翻訳や書籍の執筆に役立つポイントなどについて教えて頂きました。

前編はこちら
http://www.jvtacademy.com/news/index.php?id=556


★3Dが増えたことでQCの作業に変化はありますか?


チェックする素材が3Dの場合には、かなりの集中力が求められます。というのも、3Dには画面の“深さ(デプス)”があるからです。“深さ(デプス)”とは簡単に言うと画面の奥行きのことですね。本来、字幕は読みやすいように3D映像の最も手前に表示されているべきなのです。しかし、人物の顔の下に字幕が隠れてしまったり、表示されている短い時間の間にも“深さ”の位置がズレることで、一瞬字幕がブレて見えたり、かすんで見えたりするミスが発生することがあります。時には、ある1つの字幕だけが、いきなり目の前にドーン!と飛び出してくることも(笑)。こうした不具合を見逃さないために、3Dの場合は瞬きもできないほどじっと画面を見て、チェックしなければなりません。QCはあくまでも消費者から不具合のクレームを受けないための品質管理です。消費者と同じ目線で観てチェックするのが鉄則であり、大切なのは、機械ではなく人の目で確認すること。QCの仕事で3D作品を3本続けてみるとさすがに頭が痛くなってきますね(笑)。

★Blu-rayが普及したことでQCの作業も増えているのでしょうか?


Blu-rayはDVDに比べて容量が大きく、それに伴い映像の収録時間が長くなります。メイキングやNG集、予告編、未公開シーンなどの特典映像が盛り沢山なので、必然的にチェック作業も増えています。ちなみに、こうした特典映像や本編の副音声に収録されたコメンタリーの字幕や吹き替えは、デビューしたての映像翻訳者が担当することが多い仕事です。映像翻訳者を目指すなら、本編以外のこうしたコンテンツも日頃から観ておくことをお勧めします。私もこの仕事を通して特典映像もよく観るようになりましたが、NGの訳し方なども、いろいろなパターンを知っていると、実際に翻訳の仕事を受けた際に役立ちますよ。

皆さんが普段映画を観る際は、本編修了後のエンドロールまできっちりと観ることはあまりないと思いますが、QCの作業では、ディスクに収録された全ての情報に目を光らせなければなりません。

一番怖いのは誤字・脱字はもちろん、その画面に関係のない字幕が出ていることに気付かないままスルーし、日本の会社の人から指摘が入ってしまうことですね。これがあまりにも多いとクビになってしまうこともあるので、いつもいい意味の緊張感の中で作業しています。ある時、作品のエンドロールに流れるクレジットの画面をチェックしていたところ、作品の冒頭の字幕が再び映し出されてしまったことがありました。これは絶対にあってはならない致命的なエラーですね。

★QCの仕事を通して多くの作品を観ることは、映像翻訳に活かせますね。


昨年は仕事とプライベートとをあわせて1年間で約300本の映像を観ました。多くの作品をじっくり見る中で、気づいた点は後でメモに残し、翻訳の際に言葉選びの参考にしています。日頃からボキャブラリーを増やし、いろいろな字幕のパターンを知っていれば、選択肢が増えますよね。「こんな表現もありなんだ」という気づきは、翻訳の際にも大いに活かせていると思います。

また、吹き替え翻訳の場合、原音の音声の尺や間の取り方に、吹き替えの尺も合わせていきますが、最近は字幕でもこうした試みがされているケースをよく目にします。

Hey Joe! I can do that.
ジョー 俺がやる


字幕であれば1文にまとめて、「俺がやってやるよ」でもOKですが、リズムやタイミングを英文に合わせて2つに切ると、より音声に近い印象になりますよね。さらに名前などの固有名詞が音声とシンクロするとなお美しい。これは字幕作りのハードルを上げる試みで字数との闘いでもありますが、自分が翻訳をする際にも取り入れてみようと思っています。映像翻訳とQCの仕事を同時に手がけることは相互に学ぶ部分が多いと感じていますね。

★多くの作品を観てきた知識を活かし“ハリウッド本”を執筆されたとか。


ハリウッドの舞台裏を独自の視点で描いた書籍「ハリウッドを笑い飛ばせ! 映画が面白くなる業界ウラ話」を執筆しました。この本は、「ハリウッド誕生秘話」から、「ハリウッド映画の完成度チェックリスト」「ハリウッド職業案内」「史上最悪の大コケ映画」など、まさにハリウッドを味わいつくす1冊です。QCの仕事では、日本でも人気のサスペンスドラマや、イギリス発の世界的な人気シリーズなどを手がけたほか、映像翻訳者としても現在、歴史スペクタクルドラマの翻訳と監修を担当するなど、私は仕事を通して常に話題作を“注意深く”観ているので、必然的に映画に関する知識は蓄積されていきます。普通なら1つの作品を5回も6回も観たらうんざりしてしまいますが、私の場合は根っからの映画好きなのか、観れば観るほど面白くなってしまいます(笑)。この本は、そんな面白雑学の集大成といえますね。

映像翻訳者必見!森さんの著書はこちら
『ハリウッドを笑い飛ばせ! 映画が面白くなる業界ウラ話』2月11日発売
森マサフミ (著), 長土居政史 (監修) 小学館集英社プロダクション
©2012 Masashi Nagadoi ©2012 Masafumi Mori
©2012 ShoPro
http://books.shopro.co.jp/books/movie/hollywood.php



★もうすぐアカデミー賞の授賞式ですが、オスカーのトリビアもありますか?


「目指せアカデミー賞! オスカー攻略法」というコラムもありますので、是非、アカデミー賞発表の前に読んでもらえると授賞式をより楽しんでもらえると思いますよ。今回は作品賞部門に『ヒューゴの不思議な発明』、『アーティスト』という、ともに映画の黎明期に捧げられた作品が挙げられているので、映画のすばらしさを見直すいいチャンスでしょう。また、映像翻訳を学ぶ皆さんならハリウッドの代表作は簡単にでも知っておきたいもの。この本には、『市民ケーン』や『ゴッドファーザー』などアメリカ人が選んだ傑作映画100本を“15分で覚える”コラムも収録しています。「知識としてハリウッドの代表作を観ておきたいが何から観たらいいのか分からない」という方は、とりあえず、この中から選べば間違いないと思いますよ。

QCとして多くの作品と向き合うことは、翻訳者としての幅も広げていきます。ロサンゼルスで活躍するQCは女性の方が多いのが現状ですが、今後は男性のQCも増えて欲しいですね。世界一の野球映画コレクターを自認している私としては、スポーツ番組や敬愛するクリント・イーストウッドの作品などの男くさい作品を、男性の目線で翻訳やQCを手がけてみたいと思っています。今後はハリウッド一(いち)のQCを目指していきたいですね。

いかがでしたか? 普段なかなか知ることのないQCの仕事は映像翻訳者にとっても興味深いのではないでしょうか? 今後、DVDやBlu-rayを観る時にはQCのように隅々にまで目をこらしてみると、映像翻訳スキルを向上させるためのヒントが見つかるかもしれません。
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