日本映像翻訳アカデミー

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【バリアフリー視聴用 音声ガイド&字幕ライター養成講座】修了生座談会
講義で何を学び、どんな実務に携わっているのか?
皆さんは、目の不自由な視覚障害者や耳の不自由な聴覚障害者の方々が映像を楽しむために必要な“映像のバリアフリー化”について知っていますか?

視覚障害者には、登場人物の行動や場面転換などの視覚情報を音声にして解説する音声ガイド、聴覚障害者には、セリフや音情報を字幕にして伝える聴覚障害者用字幕という手法があります。現在、総務省では、2017年度までに対象番組の100パーセント字幕化、10パーセントに音声ガイドを付与することを指針としています。これに伴い、映像のバリアフリー化ができるプロが求められるなか、即戦力として期待されているのが映像翻訳者です。なぜならセリフを聞きおこし、ハコ切りをして、限られた尺の中で字幕や吹き替え、ボイスオーバー原稿などを仕上げるという映像翻訳のスキルは、映像のバリアフリー化にも大いに生かせるからです。

この流れを見据え、日本映像翻訳アカデミーでは、映像のバリアフリー化に取り組むNPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)と提携し、昨年6月に「MASC×JVTA バリアフリー視聴用 音声ガイド&字幕ライター養成講座」を開講しました。現在第1期修了生が、ディレクター、聴覚障害者用字幕ライター、音声ガイドディスクライバーとして活躍中です。そこで、第1期修了生の菅田奈央さん(写真左)、加藤奈巳さん(写真中央)、渡辺洋美さん(写真右)に、講座の特長や修了後に携わった仕事についてお話を伺いました。

★講座修了後に手がけたお仕事について教えてください。


加藤さん 主にスポーツ番組や、ドラマなどテレビ放送用の聴覚障害者用字幕(クローズド・キャプション)の作成やチェックをしています。アニメなどは子ども向けの番組も多いので、対象年齢に合わせて「難しい漢字は使わない」「漢字にはすべてルビをふる」などの配慮も求められます。また、映画のDVD やBlu-rayに収録される聴覚障害者用字幕を作成するお仕事などもありました。

菅田さん 80年代の日本映画に付与された一般的な聴覚障害者用字幕を短く構成し直すというお仕事を担当しました。これは、現在MASCが取り組んでいる研究の1つで、先天性の聴覚障害者のために最も分かりやすい字幕を作るためのガイドライン作りの一環です。具体的には1秒6文字で作られた字幕を1秒4文字に編集し直す作業となります。単純に考えても字幕を3分の2の尺にまとめていくわけですから難しかったですね。

渡辺さん スポーツ番組やドラマ、アニメのクローズド・キャプション作成にほか、情報番組の音声ガイドを手がけました。また、心肺停止時の処置など緊急時の医療マニュアルに字幕をつけるお仕事もありました。現在は映像翻訳のお仕事より、バリアフリーのお仕事の方が多くなりつつあります。

※渡辺さんが作成した音声ガイドの収録現場レポートはこちら

※下記の写真はクローズド・キャプションのオンサイト翻訳現場(左)と音声ガイド(解説放送)収録スタジオ(右)の様子です。

★映像翻訳にはない難しさはどんな点ですか?


加藤さん 聴覚障害者用字幕に関しては、やはり話者名と音情報の表記ですね。例えば、ホラー映画のDVDや Blu-ray用字幕を手がけた時、何の音か分からないけれども不気味な音がするシーンがありました。その音情報をどのように表現したら怖さを伝えられるのか悩みました。

菅田さん 聴覚障害者用字幕では、映像翻訳以上に“読みやすさ”が重要です。時には映像翻訳ではNGとされていることをあえてすることがあります。例えば、画面が切り替わった後でも話者の口もとが見えるところまであえて字幕を表示し続けることで、話者をクリアにするなどの工夫をする必要もあり、その違いに迷いますね。

加藤さん 私は字幕の改行位置でも悩みます。映像翻訳では2行の字幕を表示する場合、字面としての美しさも重視します。一方で聴覚障害者用字幕の場合、見た目の美しさよりも、思わぬ誤解が生じないために、より文脈の伝わりやすさを考慮することが求められます。映像翻訳の仕事と両方していると、時々混乱してしまうことがありますね。

渡辺さん 音声ガイドの場合は、場面転換を常に入れるのが大変ですね。情報番組のようにめまぐるしく変わると、場面転換の解説だけで多くの尺がとられてしまいます。また、セリフやナレーションの合間の短い部分に尺合わせをして入れていくのも、吹き替え翻訳やボイスオーバーなどとは違う点です。

菅田さん 映像翻訳は元の映像に入った言葉を訳すのに対し、音声ガイドは音のない部分の映像について解説していく手法です。この作業を通して、普段何気なく見ている身近なものについて、実は正式な名前を意外と知らないことに気づきました。

加藤さん そうですね。音声ガイドを学んだことで、自分が見たままを言葉にして相手に正確に伝えることの難しさを実感しました。セリフに「あれ」「これ」などの指示代名詞がある場合も要注意で、常にガイドで補足する配慮が必要になります。

★講座を振り返って、仕事で生かせているのはどんな点でしょうか?


菅田さん 実務に携わると、各放送局ごとに定められたルールなどを追うのに必死で、目や耳の不自由な視聴者にきちんと伝わるのか?という根本を追求する余裕をなくしてしまいがちです。3カ月間の講義の間、こうした根本的な姿勢とじっくり向かい合いながら学べたことが良かったと思っています。

加藤さん 映像翻訳でも視聴者を想定することは必須ですが、音声ガイドや聴覚障害者用字幕の場合はさらに相手の立場を理解しようとする姿勢が求められます。講座に視覚障害者の方とナレーターさんをお招きし、私たちが作った音声ガイドを聴いてもらえるモニター検討会があったのは貴重な経験でした。モニターのお二人がそれぞれに違った見解をされていた部分もあり、正しく伝える難しさを実感できました。

※写真はモニター検討会の様子です

渡辺さん 一口にクローズド・キャプションといっても放送局や番組内容によってそのルールは変わってきます。講義ではあらゆるジャンルに対応できる基礎を学べたのが良かったですね。


映像のバリアフリー化に取り組む中で最も大切なのは、作品の内容を視聴者に正しく伝えること。笑える場面や泣ける場面を同じように楽しめるための鍵は、あらゆるパターンに真摯に向き合いながら最適な方法を模索する中で探していくしかありません。「MASC×JVTA バリアフリー視聴用 音声ガイド&字幕ライター養成講座」では、映像のバリアフリー化の普及のために活動するNPO法人MASCから講師をお迎えし、常に視聴者の分かりやすさを考慮しながら、実務に即した実践的なスキルを学ぶことができます。今後ますます急増する映像のバリアフリー化の波は、映像翻訳者が活躍できる新たな可能性を秘めています。興味のある方は、挑戦してみませんか?

◆「MASC×JVTA バリアフリー視聴用 音声ガイド&字幕ライター養成講座」◆

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