
動画配信の普及で国内外の映画やドラマをいつでもどこでも観られるようになった現在、私たちは日常的に字幕を利用しています。昨今はスマートフォンの小さな画面で観るニーズが増えたこともあり、吹き替え版も多く制作されていますが、JVTAで映像翻訳を学ぶ人たちは圧倒的に字幕派が多いという傾向があります。2023年2月~3月にかけ、公式Twitter(JVTA_TOKYO)で行ったアンケートでも字幕派が81%と吹き替え派19%を大きく上回りました。
では、映像作品の字幕版は、どのようにつくられているのでしょうか。JVTAで字幕制作を手がける藤田庸司ディレクターに制作の流れを聞いてみました。
クライアントから映像素材が到着
クライアントから映像が届いたら、まず翻訳ディレクターが映像のチェックを行います。問題がなく映像がすべて再生できるか、映像の長さ(尺)はどれくらいか、内容はどんなものか、また、クライアントへの納期や納品形態などを確認。さらに、作品のスクリプト(台本・原稿)や資料、翻訳をするうえでの指示書など翻訳者に共有できるものがあれば、事前に受け取ります。
映像の長さや内容を考慮して字幕原稿の納期を決定
映像翻訳の場合、一般的に分単位で翻訳料金や作業期間が決まります。しかし同じ分数でも作品によって字幕の枚数は大きく変わります。会話が多い作品であれば、字幕の数は多くなり、アクションが多くセリフが少ない作品であれば字幕の数は減ります。そのため、事前にセリフの量などをチェックしておくことが必要です。
一般的な翻訳の作業期間
・30分番組(実質23〜24分程度): 5日〜1週間程度
・1時間番組(実質45〜46分程度): 10日〜2週間程度
「同じ尺でもドキュメンタリー番組:の場合は、1時間番組(実質45〜46分程度)で2〜3週間程度の納期となります。ナレーションなど情報量が多いことに加え、専門的な内容の場合は、裏付けの確認等のため時間を要することを想定して納期を長めに設定しています。」(藤田庸司ディレクター)
担当する翻訳者の選定
JVTAが字幕を手がける映像は媒体もジャンルもさまざまです。
そこでJVTAでは、トライアルに合格後、OJTを経てデビューした翻訳者を登録する際、これまでの職歴や学習歴、語学のスキル、得意分野などについてシステム上のMyPageへの記入を依頼しています。それにより、各作品の内容により最適な人材をマッチングすることが可能になっています。
「作品のジャンルやテーマを考慮し、知識や経験のある方への依頼を優先しています。字幕のトーンを知っていることは、翻訳する際にとても強みになるからです。映画やドラマ、音楽もジャンルだけでなく、好きな作品名や俳優名、アーティスト名、監督名など細かい情報まで登録してもらうことで、よりマッチングの精度を上げられるようになります。同じスポーツでもどの競技にどのくらいの知識があるのか(観戦のみか経験者か)などが具体的に書いてあれば参考にします。」(藤田庸司ディレクター)
翻訳者の納品原稿をチェック
翻訳者から翻訳原稿が納品されたら、内容のチェックを担当するチェッカーや翻訳ディレクターがクオリティのチェックを行います。
「ディレクターが主にチェックしているのは、事実確認(数字、固有名詞なども含む)、全体の統一感、情報の整合性、表記・表記揺れ、登場人物の口調やキャクター設定の統一などです。文章のわかりづらさ、事実関係の確認不足、原文からの逸脱・情報不足、前後関係や辻褄が合わないなど、客観的に見て疑問がある箇所は、翻訳者にリサーチ内容などを確認し、代案を依頼することもあります。医療や音楽関連などの専門的な分野はクライアント側で専門家の監修が入り、修正のフィードバックを受けることもあります。」(藤田庸司ディレクター)
最終的には完パケにしてクライアントに納品
JVTAから字幕のデータをクライアントに納品する際は、完パケ(「完全パッケージ」または「完成パッケージ」)という形式にすることが多々あります。これは編集や音声の仕上げなどすべての作業が完了し、そのまま放送や販売・公開ができる完成品であり、映像に字幕やテロップを焼き付けた状態です。JVTAはスタジオの手配や収録なども手掛けます。
「時には、字幕翻訳者がスタジオに立ち会うこともあります。翻訳者は現場で誤字脱字の確認や字幕が出る・消えるタイミングの調整などを行います。(藤田庸司ディレクター)
翻訳者には基本的なビジネス対応力(ビジネスマナー)も必要
翻訳者が字幕データを納品後、ディレクターのチェックや収録現場の修正などを経て、字幕付きの作品が視聴者に届けられます。このように映像作品の字幕版制作には、言語の翻訳だけでなく様々な作業が発生しているのです。一連の作業をスムーズに進めるため、翻訳者には技術や語学力だけでなく、基本的なビジネス対応力(ビジネスマナー)が必要だと藤田ディレクターはいいます。
「翻訳者には、納期を守る、書式を守る、受領確認や指示書確認の連絡を徹底するといった当たり前のコミュニケーションが極めて重要です。どんなに翻訳のスキルが高くても、メールの返信がない・遅いなど対応に不安があると、次回の依頼をためらってしまいます。弊社で活躍している翻訳者の皆さんは、往々にしてビジネス対応力も一流です。」(藤田庸司ディレクター)
字幕制作は、翻訳が済んだら終わりではありません。マスメディアで放送したり、イベントなどで上映したりするためには、間違った情報を字幕にすることは許されないからです。そのために、翻訳ディレクターが作品の内容を得意とする翻訳者に依頼するほか、字幕の納品後はチェッカーと共に字幕のクオリティのチェックを行い、事実確認はもちろん、全体のトーンを整えるなど、さらに完成度を高めていきます。
私たちが日常、目にする字幕もこのように作られています。皆さんも字幕を観る視点が少し変わったのではないでしょうか。
インタビュー協力

藤田庸司(映像翻訳ディレクター)
メディア・トランスレーション・センター(MTC)、チーフ・ディレクター。当校修了後、フリーランスの翻訳者として、主に音楽、バイクなどの番組を担当。映像翻訳ディレクターを務める現在は、昨今のメディア業界のニーズに応えるべく、大量案件を短い期間で納品する「チーム翻訳」を推奨し、さまざまなジャンルを手がけている。