日本映像翻訳アカデミー

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小松原宏子さん インタビュー
映像翻訳に通じる幼年誌づくりのスキルとは?

日本映像翻訳アカデミー(JVTA、以下JVTA)の修了生であり、映像翻訳者、児童文学作家としてご活躍の小松原宏子さん。小松原さんが講師を務める課外講座『翻訳に役立つ知識と教養 聖書を学ぶ・基礎知識編』、『翻訳に役立つ知識と教養 聖書を学ぶ・エピソード編』は、分かりやすいと毎回大人気となっています。そんな小松原さんが、フレーベル館の保育絵本キンダーブック1『げんきがだいすき』の12月号で、『わらしべちょうじゃ』の文章を担当されました。映像翻訳のスキルにも通じるという幼年誌作りについて、お話を伺いました。

幼年誌の文を手がけたきっかけを教えて下さい。


この仕事のきっかけは偶然の出会いです。私の作品の挿絵を以前担当してくれた星野イクミさんの個展に行った際、フレーベル館の編集者の方を紹介されました。名刺をお渡しすると、「映像翻訳って何ですか? 普通の翻訳と違うんですか? 」とたずねられたんです。そこで「字幕や吹き替えをつくるお仕事で文字制限があります。私はそういう言葉選びが大好きで学校に通ってそのスキルを学びました」とお答えしたところ、とても興味を持って頂き、話がはずみました。この出会いが結果的に幼年誌の昔話の再話のお仕事に結びついたんです。

約10年前にJVTAに通っていた頃、私は一介の主婦で名刺を持ったことがありませんでした。でも、新楽講師の最後の授業の、「仕事をする前にまず名刺を作りなさい」という言葉で初めて自分の名刺を作ったんですね。それから10年後、映像翻訳者の肩書きがきっかけで幼年誌のお仕事につながるとは、その当時は思ってもみませんでした。

今回はどのような素材を元につくったのですか? 映像翻訳のように絵が先にあって字数などが決まっていたのでしょうか?


各ケースそれぞれ違うので一概には言えませんが、今回は先に文章をつくり、後から絵をつけるという形でしたね。細かい字数制限などはありませんでしたが、幼年誌の中の作品は子どもたちに分かりやすく伝えることが大切です。そのためには、少ない文字数の中でどこまで豊かな表現ができるのか、どうしたら印象的な言葉の並びになるのかを意識することが非常に重要とのことでした。編集者からは、そういったご指導をいただくとともに、過去の同冊子のサンプルと『わらしべちょうじゃ』のサンプルを見せていただきました。

そのほかにも、自分が持っていた本など、合わせて7、8種類の『わらしべちょうじゃ』を読み、全体的な構成を考えることから始めました。昔話は語り継がれてくるものなので、探してみると実はいろいろなものがあります。たとえば、「怠け者の男がたまたまもらった“わらしべ”を元手に一攫千金でお金持ちになった」という書き方もあれば、「信心深いまじめな若者がお地蔵さまからもらった“わらしべ”で幸せになる」というものもありました。私は、子ども向けにお話をつくる時には基本的にハッピーエンドにしたいと考えています。始めから現実的な世界を見せつけるより、「人生にはこんな素敵なことが待っているんだ」いう気持ちで育って欲しい。ちなみに私の著作本では悪役さえ最後には改心して優しくなるんです(笑)。今回、キンダーブックの編集者とも、「真面目な若者が優しい気持ちで、みんなに欲しいものを惜しみなくあげたら、自分も幸せになれた」という軸でという軸でいこうと話し合いました。。また、この本は2?3歳児が対象なので、その年齢の子どもたちに分かりやすいものにするよう求められました。

小松原さんならではの『わらしべちょうじゃ』、そのこだわりを教えて下さい。


ます、主人公に「たろう」という名前をつけたことですね。「わかもの」という言葉は子どもに馴染みがないし、名前があったほうが親しみを持ってくれます。わらしべにつける虫も「ハエ」「アブ」「ハチ」などいろいろあったのですが、私は「ハエ」を選びました。「アブ」はすぐに姿を想像できないし、「ハチ」だともらった男の子が刺されちゃうかもしれないでしょう(笑)。また、喉がかわいたおばあさんにあげた物をみかんにしたのは、汁気が多く喉を潤してくれそうだし、道端でもすぐに皮をむいて食べられるから。これも、「梨」や「夏みかん」「冬瓜」などいろいろあるのですが、「梨」はナイフがないと皮を剥けないし、「冬瓜」は大人でもピンとこない。こんな風に細かい所を担当編集者と打ち合わせしながら、私なりのお話を考えていきました。この作業が楽しいんです。

幼年誌ならではの言葉選びはありますか?


読み聞かせをすることも考えて、リズム良く作ることを意識しましたね。例えば、交換していく表現、「あげました」、「くれました」は、毎回あえて同じにしました。子どもはくり返しが好きなので、「次はなんだろう? 」って興味を持ってくれます。歌の歌詞みたいに韻を踏むのもいいですね。ですから、私も常に声に出しながら音を確かめて、文章を考えていきました。こうして考えると限られた文字数で言葉を選ぶのは字幕づくりに似ていますし、音を意識するのは吹き替えにも通じると思います。さまざまな言葉を盛り込んで長く書いた後で、2稿、3稿と進めながら編集者の方と検討しながら言葉を絞っていくという作業となりました。

絵と文章を合わせることも大切な要素ですよね。



そうですね。基本的に見開きで1場面を表現するので、そのページ内でその場面を完結しなければなりません。いくら、次のページの字数が少なくてもはみだすことはできませんから(笑)。これは、映像翻訳のハコギリにも通じるのではないでしょうか。

言葉が少ない分、絵に助けられる部分も大きいですね。始めに文章を作ったときも、自分ではかなり短くまとめたつもりでしたが、それでも幼年誌の基準から見るとはるかに長すぎたんです。そこで、その20分の1以下くらいまでもっていかなければなりませんでした。「やさしい」「かわいそうな」などの形容詞を入れる余裕もなくなり、本当に必要な主語と述語くらいしか残せないくらい、ぎりぎりのところまで削っていきました。実際に出来上がった文章は本当にシンプルな表現になっています。

でも出来上がった絵をみると、みすぼらしい着物を着たたろうが、お腹に手をあてて座り込んでいて、空腹なことがちゃんと表れていました。今回挿絵を担当してくださった柿田ゆかりさんとは、何も打ち合わせをしていないにも関わらず、私が削った言葉を絵がちゃんと補足してくれていたんです。また、みかんをもらったおばあさんは綺麗な反物をくれるのですが、子どもに反物は分からないし、字数を考えても「ぬのをくれました」しか入らない。でも、できあがった絵には、色鮮やかな反物が描かれていて、みかんから高価な反物に代わっていることが分かりました。

はじめに思いをこめて文章を作れば、最終的にできあがる文章はシンプルでも、きちんと思いは伝わることを実感。柿田さんの絵にはたろうの優しさが感じられてとても嬉しかったですね。

文字数を減らすにはカギカッコをうまく使うのもテクニックですね。


実はおばあさんの言葉を台詞にしたのには意味があるんです。「男の子が泣いている」なら姿を見てわかります。でも喉が渇いていることは見ただけでは、たろうには分からないし、絵で表すのも難しい。ですから、「のどが かわいて しにそうです。/おねがいですから/みかんを ください。」とあえて語らせたんです。ちなみに、絵ではすでに皮をむいたおいしそうなみかんを前に、おばあさんがきれいな反物を差し出していますが、この場面も私のイメージとぴったりでしたね。

ご自身でも子ども向けの本を出版されていますが、書く際はやはり綿密に構成を考えて作っていくのでしょうか?


いいえ、自分で創作する時は、深く考えずにいきなり書き始めます。いわば、作者でありながら読者の視点で「この後はどうなるのかしら? 」とワクワクしながら書いていますね。以前に新聞の連載をしていた時のこと、挿絵の方が先に絵を描いてくれたら、途中で話が変わってしまい、合わなくなったことがありました(笑)。小学生向けの本なら、必要な言葉を足すことができるので、幼年誌のほうが、シンプルなだけにより綿密な作業が求められると思いますね。

読者のみなさんにどんなところを見てほしいですか?


昔話は悪い者をやっつける、いわば勧善懲悪のお話が多いでしょう。でもこの『わらしべちょうじゃ』はみんなが欲しいものを手にして幸せになれる。私はそこが好きです。たろうは確かに優しい人ですが、もらったものよりも明らかに高価なものに交換してくれる人たちもえらいなあと思いませんか? (笑)いい作品とはきっと、シンプルでさらっと読み進められるもの。よくできているなとさえも感じさせないほど自然なものなのだと思います。長い文章から必死に削ったことを感じさせない、そんな自然な印象でありつつ、たろうの優しさが子どもたちに伝わってくれたら嬉しいですね。
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