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vol.30 『恋人までの距離(ディスタンス)』 by 藤田奈緒


4月のテーマ:ピンク

幼稚園の時に好きだった相手の名前を大人になった今でも言えるのと同じように、青春時代に観た映画というのはいつまでも心に残っているもの。『恋人までの距離(ディスタンス)』は、「これが恋の始まりというものなのね!」と、16歳の私に大きな衝撃を与えた"恋愛"映画です。(注:"影響"ではなく)

ブダペストからウィーンに向かう列車でたまたま隣合わせに座ったアメリカ人青年ジェシー(イーサン・ホーク)とフランス人女子大生のセリーヌ(ジュリー・デルピー)。会話を交わすうち、なんとなく気の合った2人は、夜のウィーンの街を散策することにする。一緒にいられるのは、翌朝ジェシーの乗る飛行機が発つまでの14時間だけ。

登場人物はほぼ主人公の2人のみ。特別に大きなイベントが起きるわけでもなく、派手なバックミュージックがかかるわけでもなく、2人の会話だけで物語は語られていきます。互いの恋愛観、将来のこと、家族のこと、幼い頃の思い出。飾り気のない会話を重ねるうち、初対面の2人の距離は徐々に徐々に近づいていく。その様子はまるでドキュメンタリーを観ているかのようにリアルで、2人の心の動きが画面を飛び越えて伝わってきます。

レコード店で視聴をする2人。彼はこっそり彼女を見つめ、彼女も彼をこっそり目で追ってしまう。互いの視線を感じつつも、2人の視線は決して交わることはない。セリフもないのに、観ているだけでドキドキしてくるシーンです。

その後、カフェに入った2人は、友達に電話をかけるフリをして気持ちを伝え合うのですが...。

Celine:I like to feel his eyes on me when I look away.

13年前にこの作品を観て以来、なぜか忘れられずに暗記してしまったセリーヌのセリフです。一度でも恋したことのある人なら、誰もが共感できるのでは?その時のハートに色を塗るなら、きっと淡いピンクに違いありません。

1人の男性と1人の女性が出会い、心を通わせ惹かれ合っていく。その過程をじっくりと一緒に味わえる、静かでありながらも心に響く作品です。

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『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』
監督:リチャード・リンクレイター
出演:イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー
製作年:1995年
製作国:アメリカ
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