気ままに映画評

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挫折した異端者の抵抗が
やがて大きな変化を起こす映画『マネーボール』

                                               Text by 鈴木純一    

マネーボール01.jpg『マネーボール』というタイトルから「ビジネスと野球を結びつけた映画なの?野球も詳しくないし、『もし高校野球のマネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』も読んでないし」と思った人、安心してください!ビジネスに疎くても『もしドラ』を読んでなくても『マネーボール』は楽しめます。

主人公のビリー・ビーン(ブラッド・ピット)は野球チーム、アスレチックスのゼネラルマネージャーを務めている。ところが、アスレチックスは予算が少ないため、成績が良い選手を雇いたくても、お金を持っているチームに高いお金で先に契約されてしまう。そこで「お金の無いチームでも勝てるチームを作る」ために彼が考えたのが「マネーボール理論」だ。これは、ホームランを打てる年俸の高い選手を雇う代わりに、年俸は高くないが出走率の高い選手をスカウトするというもの。そして過去の打率などの詳細な数字上のデータを基に選手をトレードして強固なチームに変えていく、という理論だ。
イエール大学卒業のピーター(ジョナ・ヒル)をアシスタントにし、「マネーボール理論」を元に次々とチーム改革を行っていくビリー。誰の目から見ても無謀な彼の戦略は「数字や理論だけで野球に勝てるものか!」とチームのスタッフや監督から反発を買うが、そんな中アスレチックスに少しずつ変化が起こってくる...。

ビリーはかつて将来を約束され、大金でメジャーリーグにスカウトされた選手だった。しかし周囲から期待される重圧に勝てず、好成績を残せずに挫折してしまう。過去の経験から「大切なことはお金で判断しない」を自分に課してチームを育てるビリーを、ブラッド・ピットが好演している。


マネーボール02.jpg『マネーボール』は実話を基にした映画。脚本を手がけたのは『ソーシャル・ネットワーク』のアーロン・ソーキンと、『シンドラーのリスト』のスティーヴ・ザイリアン。どちらも実在の人物を主人公にした映画だ。そして本作の監督ベネット・ミラーも『カポーティ』で実在の作家トゥルーマン・カポーティを描いていた。3人の共通点は、実在の人物を描くことに長けていることだ。『カポーティ』でアカデミー主演男優賞を受賞したフィリップ・シーモア・ホフマンが『マネーボール』ではアスレチックスの監督役で登場している。せっかくアカデミー賞俳優を出演させているのに、彼は常に腕を組んで唸っている役なので、もったいない感じもするが。

『マネーボール』は、挫折した異端者が独自のアイディアを持ってメジャーリーグ界に大きな変化をもたらす人間ドラマとして、野球が詳しくなくても見応えのある作品となっている。ビリーが行ったチーム改革の結果はどうなったのか?その結末は映画館で観てください。