発見!今週のキラリ☆

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vol.74 「未知の自分を信じて」 by 藤田庸司


1月のテーマ:未知

元々MTCスタッフ1名で担当していたOJTだが、去年の暮れから4人体制となり、僕も4分の1を担うこととなった。トライアルに合格しプロデビューを目前に控えた翻訳者さんたちとやり取りしていると、彼らからは、あたかも花が開花する直前のような勢いや情熱が感じられ、こちらも身の引き締まる思いがする。その情熱と培った技術で、今後の映像翻訳業界をグイグイ引っ張っていってほしい。

一方、トライアル合格に今一歩届かない方から、未来に対する不安や勉強に関する悩みを相談されることも多い。悩みの多くが「自分の力が伸びているのかどうか分からない」、「何度もトライアルを受けているが、どうしても受からない」、「自分は他のみんなと比べて、何が欠けているのか知りたい」といった内容だ。それらに個々のライフスタイルや、将来の展望などがからむと、悩みは実に様々だ。

しかし、多種多様な悩みの中にも決まって感じられることがある。それは"焦り"だ。ほとんどの人が「とにかく早く仕事を!!」、「とにかく早くトライアル合格を!!」と口にする。僕も受講生だった頃、「この先どうなるのかな...」といった不安を何度も感じたことがあるので、はやる気持ちは痛いほど分かるが、そういう時こそ"冷静に"自身の力を分析してほしい。周囲を気にするのではなく自分の内面に目を向け、講義や面談で何度となく繰り返し言われる映像翻訳者に必要な基礎力がきちんと備わっているかを、まず見直してほしい。以下に3つの見直しポイントをあげる。

まずは翻訳の基盤となる英語力。
受講中はさておき、プロの映像翻訳者としてやっていくには、TOEICスコア860点は必要とされている。もちろん、700点でも、800点でも翻訳はできるが、英語力の低さは、訳出スピードに影響及ぼすうえ、解釈ミスや誤訳の原因となる。逆に英語力が上がり訳出スピードが上がれば、生まれた余裕を日本語表現の練り直しや調べ物へ当てられるなど、俄然有利となる。英語力はあるに越したことはない。現在860点ならば、900点、900点ならば950点と、常に上を目指して努力したい。

2つ目は日本語表現力。
よく「どうすれば日本語が上手になりますか?」という相談を受けるが、僕は決まって「日本語を読んでますか?書いてますか?」と返す。「日本語が上手くなりたいな~」と思うだけでは上手くならない。思う前にとにかく読んだり、書いたりすること。ただし本を読むにしても、読んで"楽しかった"で終わるのではなく、感想文を書いたり、うまい表現があればそれを使用して日記を書いたりしよう。とあるプロ翻訳者さんは、修行と称して放送されるドキュメンタリー番組の字幕を写経すると言っていた。自分の文章が正しいかどうか分からない場合は、人に読んでもらうのもいい。受講生ならば、クラスメートとの原稿の交換は効果的だ。

最後にリサーチ力(調べ物)。
特に映像翻訳では、スクリプトにない重要な情報が映像や番組テーマの文化的背景に込められていることが多いので、誤訳や解釈ミス防止のためにも素材に関する徹底的なリサーチが必要だ。ただし、闇雲に調べればいいというわけではない。リサーチに時間を費やすあまり、訳出作業に当てる時間がなくなっては本末転倒。必要な情報を最小限の時間で入手する方法を身につけたい。

MTCトライアルでは、上記のうちどれか一つが欠けても合格できないように設定されている。合格に至らない人は、いずれかが弱いわけで、自分のウィークポイントを洗い出し改善しなければ、何度トライアルを受けても同じ結果を繰り返すだけである。また、もののはずみで合格しても、その後のOJTで苦労したり、プロとして仕事をするようになっても、いい仕事が出来ず、受注量を減らさざるを得なくなる。結局は未知の自分を信じて焦る気持ちを抑え、地道に基本スキルを磨くことが、自身のレベルを上げる一番の近道となるのだ。

MTCは今年も、一人でも多くの方の夢を叶えるべく全力を尽くす所存です。
みなさんにとって飛躍の年となりますよう、今年も共にがんばりましょう!