発見!今週のキラリ☆

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2011年4月 アーカイブ

vol.105 「ブラウン管の思い出」 by 杉田洋子


4月のテーマ:テレビ

映像翻訳者の大切な仕事の供給源であることは、言うまでもないテレビ。
世界中の様々なコンテンツを日常的に見られるようになったおかげで、
こうして大好きな映像翻訳に関われるのだから、我々にとってはもはや神様のよ
うなものである。

そんなメディアとしてのテレビの進化が続く一方で、
受信機としてのテレビもまた、目覚ましい進化を遂げてきた。
果たしてテレビという名で呼び続けていいのだろうかと躊躇するほど、
すっかりスリムで多機能でスタイリッシュな存在になってしまったのだ。

子どもの頃、私が実家で最初に出会ったテレビは、1桁台のチャンネルはボタン
式、2桁台のチャンネルはラジオのようにダイヤルで回すタイプのものだった。
リモコンなんてもちろんなく、枠は木製だったような気がする。
おじいちゃんがチャンネルを変えようと立ち上がる度に、"見えな~~い!!"
と孫たちの声が上がった。そしてガチャガチャ音を立てながらチャンネルを変え
られるたびに、"またお相撲~~??"の声がこだました。

ブラックやシルバーのボディーにリモコン式という出で立ちが一般的になったの
は、小学生に入ってから。もちろんまだまだブラウン管の時代だ。
「東京ラブストーリー」をはじめ、テレビドラマの再放送を毎日食い入るように
見ていた5年生の私は、話したこともない隣のクラスの男の子に思いを寄せてい
た。名前は山田くんという。そんなに目立つタイプではないが、背が高く、清潔
感があり、運動神経もそこそこ。しかし何より私の心をつかんだのは、大好きな
はとこのお兄ちゃんに顔が似ていたことだろう。

ある晩のこと、近所を何台もの消防車が通り過ぎていった。さすがのサイレンの
多さに、私と母も、"怖いね、どこだろうね"などと気にしていた。
そして翌朝、学校に行くと何やらよからぬ噂が耳に飛び込んできた。

友人:"山田んち、火事になったんだって"

(え! 昨日の火事って、まさか山田くんちだったの?)

動揺を隠せない私。

私:"何で火事になったの? 天ぷら?*"

友人:"ううん。テレビから火が出たらしいよ"

私:"え..."

ブラウン管テレビの経年劣化による火災は、近年も取りざたされたが、当時小学
生だった私には、テレビが急に燃えるなんてかなりショッキングだった。
一瞬ギャグかとさえ思ったほどだ。
幸い山田君は無事で、私の恋の炎が鎮火することもなかった。


そして今...我が家の寝室には、上京時に故郷で購入した14インチのテレビデオが
鎮座している。故障したわけでもないので捨てられずにいるが、さすがにそろそ
ろ危ないのかもしれない。しかし、一緒に上京した仲間としての思い入れが邪魔
をする。
知人が譲ってくれた液晶テレビを見るようになってからは、快適な生活が続いて
いたが、先週急に故障してしまった。
エコポイントも3月いっぱいだし、修理代を払うのもな...ということで、実は一
昨日ようやく思い切って地デジ対応の50インチ購入に踏み切った。**
現在到着を楽しみに待っているところだ。

それにしても、テレビが平面化するにつれ、上に何も置けなくなったのはちょっ
と寂しい。テレビデオの上のカメの置物が、不安げにこちらを見ている(ような
気がする)。


*我が家はその数年前、天ぷら油でボヤを起こしていた。
**本日はエイプリルフールです。本当は32インチです。すみません。

vol.106 「テレビは師」 by 藤田庸司


4月のテーマ:テレビ

3月、4月はMTCの面談月間。次の学習プログラムに進む受講生、培ったスキルを武器に新たな就業形態を模索する修了生、質問や悩みは様々だが「どうすれば日本語が上手になりますか?」、「適切な情報の取捨選択にコツはありますか?」など、翻訳テクニックに関するものが大半を占める。

ただ最近思うのは、話しを聞いていると、多くの方の意識は"映像翻訳"の"翻訳"のほうにフォーカスしていて"映像"には目が向いていない印象だ。"映像翻訳"は文字通り"映像"と"翻訳"が一体となって成立するユニークな翻訳ジャンルで、どちらか一方が欠けると全く意味を成さなくなる。それほど重要な"映像"にもう少し注目してもいいのではないだろうか。
MTCでは"メディアセンス"という言葉をよく使う。世間的に確たる定義がある言葉ではないので各業界によって使われ方は異なるかもしれないが、映像翻訳の世界でいえば"メディアに対するその人の感覚・感性"、MTC風に分かりやすく言うと"映像コンテンツのテーマやトーン、ストーリーの流れなどを捉える勘やセンス"といったところだ。
そして実はそのメディアセンスなるものが、先に書いた質問を解決する鍵となることが多い。
「どうすれば日本語が上手になりますか?」という質問に、僕はよく「テレビをたくさん見ましょう。」と答える。テレビの中には手本となる素晴らしい日本語が溢れている。何の気なしに楽しく見るのも悪いことではないが、日本語を扱う職業に携わる者としては、そこで使われている言葉について敏感になってほしい。例えばアナウンサーの口調や使っている言葉は、ドキュメンタリー作品に字幕をつける際のナレーション部の参考になる。他にもインタビュアーの口調や質問内容、それに答えるゲストの言葉、ドラマの登場人物のセリフなど、特徴を研究し、盗み、原稿を書く際に生かしてみよう。オープントライアルの原稿をチェックしていると「この人は普段ドキュメンタリー番組やニュースをよく見ているんだろうな」とか、「この人は海外ドラマをよく見ているんだな」とか、字幕の口調や文章のトーンで驚くほど分かる。一朝一夕にとはいかないが、心がけ一つで日本語表現力は確実にアップしていくはずだ。
「適切な情報の取捨選択にコツはありますか?」という質問に関しても同様、ヒントはテレビの中にある。国内外問わず、番組や映像作品にはきちんとしたテーマや、それを表現するための練りに練られた構成が存在する。多額の資金を投入して、脚本を用意し、視聴者数を見込んで多くの制作スタッフがコンテンツを作っているわけで、カメラマンが思うがままにカメラを回し「はい、出来ました!」と世に出しているわけではない。
そして、よく見ていくと、番組というものにはある種のパターンのようなものがあったり、似たような構成やストーリー展開が出回っていたりする。
「あれ?これってあのドラマそっくりじゃない?」という映画に遭遇したり、ドキュメンタリー番組を見ていて「この手の作品って絶対この始まり方だよね。それで最後はこれで終わるんだよね」と感じたり、サスペンスドラマを見ていて、冒頭の5分で誰が犯人かおぼろげに分かったりしたことがあるだろう。
情報の取捨選択で迷う方や、字幕の流れを作るのが苦手な方はそうした作風、作品の構成パターンを掴むのが苦手なのではないだろうか。言わずもがな、映像翻訳の場合、文字数制限や尺合わせの都合上、情報をカットしたり、大きくまとめて簡易化しなければならない。しかしその情報カットはあくまでも日本語を制限文字数の中に収めるためや、ボイスオーバーの尺合わせのためで、本来は原文にある情報をすべて出したいところを泣く泣く削除、省略するわけだ。ではその見極めはいかに?答えは映像が持つテーマとストーリーの流れ(構成)を熟知することにある。
情報の取捨選択で迷う方や字幕の流れを作るのが苦手な方は、作品の一部を断片的に捉えているような気がする。そうではなく、映像の頭からお尻までの構成、作品のテーマ、登場人物の役割とその意味、すべてを汲んだうえで、"番組全体"を大きく捉えてみよう。作品全体を見ることができれば、「この情報は絶対にカットできない」とか「ここでこの情報を出しておかないと、後の展開が分かりづらくなる」などが自ずと見えてくるはずだ。映像翻訳者にとってテレビの中は宝の山。是非、研究してスキルアップに利用したい。

vol.107  「せっかくの地デジカなのだから。」 by 浅川奈美


4月のテーマ:テレビ

「最近はまってるテレビってなに?」っていう会話を、まったくしてない気がする。子供の頃学校では、かなりメジャーなトピックとして日々君臨していたのに。堕ちたものだ。私は今でもテレビをよく観る。何とか時間を作ってできるだけ観るようにしている。
最近のテレビ事情についてだれも聞いてくれないので、自分からアナウンスしている。今日も言ってしまおう。

「魔法少女まどか☆マギカが熱いっ!!」と。

シャフト制作によるテレビアニメ作品。2011年1月から毎日放送 (MBS) ほかで放送された。全12話。4月21日深夜に最終回までの3話が一挙放映された。当日の読売新聞の朝刊一面にも広告が出ていた。地方のファンは鑑賞ツアーを組んでリアルタイムでの放送を堪能した。放映される地区では有給申請をしたものが多くいた。放送は終了したが、私にとってはまだまだブームだ。

この時点で言っておくが、ちなみに今日のコラムは「今週の一本」ではない。「キラリ」だ。

各ストーリー展開、カット割の意図、引用されていた独語など多言語文献の意味、最終回のさらにエンドロール後の映像をどう解釈するか、などを巡る考察が国内外のファンにより活発に行われている。これらを読んでいると、ファンたちがいかに作り手の意図やコンテクストを読み解こうとしているのかがよくわかる。この姿勢は、映像コンテンツに関わるものとして、時として尊敬に値する。ストーリーに関してはネタバレになってしまうから発言を控える。是非観てほしい。
「ネタバレ?え?全然興味ないから別にいいんだけど」とか、いわないでほしい。きーーーっ。この作品は既に、海外にも相当広まっている。あらゆる言語に翻訳されて。その方法については、あえて言わない。
さて。ここまである一部のファン(アニメ)をとりこにするのは、このTV放映されたコンテンツが極めてアニメを見慣れたファンを満足させるほどの専門性がありクオリティの高いものだったからだと思う。

ネットがこれだけ普及して、youtube、ニコ動、ustrea、オンデマンド配信などありとあらゆる形で動画を楽しむことが出来るようになりおびただしい数の選択肢が増えてしまった昨今、テレビは厳しい現実を突きつけられている。いわゆる見たいものだけ見る時代。世間一般において世代や立場を超えて共有できる価値観や概念が著しく減ってきている。
みんなが「8時だよ!全員集合」や「ひょうきん族」をみていたり、プロ野球のTV中継が高視聴率をたたき出していたあの頃とは違うのだ。
職場において
「この難局をどう乗り切っていくかは、2アウトでほら、満塁策をとって...(あーだこーだ)」
など上司に言われたところで、野球のルールすら知らない部下は、「はぁ?(ぽかん)」の時代だ。

2011年7月24日アナログ放送終了を期に、「この際テレビなんて買う必要ないかな。」などと思っている人が世の中にはたくさんいるらしく、一般の、それも特に若者層のテレビ離れに拍車をかけるらしい。
でも、最近テレビの可能性を感じることがある。
それは専門性のある質の高いコンテンツの出現。
先に書いたアニメのほかにも、最近ちょくちょくみられるバラエティ番組のスタイルがそうだ。「タモリ倶楽部」的な番組がNHKでも作られ始めた。また、AKB48や、EXILEがメインで出演するレギュラー番組などは、そのファンだけは確実に見たくなるようなマニア向け内容になっている。いわゆる幅広いターゲットが楽しめる高視聴率番組を作っていくよりも、それがニッチな層であっても確実にコンテンツを受け取ってくれる人に届けることが重要になってきているのではないか。予算をきっちりかけながら、ネット番組では実現できないような、ちょっと振り切れちゃってる内容は、面白くなる可能性が高い。この傾向はより強まっていくんじゃないかと思う。

最後に。携帯電話ショップとかで、白くて赤い目をしたミンクみたいな動物の手書きポップを見たら、それは、「まどか☆マギガ」に出てくるキャラ、「キュゥべえ」だ。
「僕と契約しなよ」と、契約者獲得に一役買っている。