発見!今週のキラリ☆

« vol.105 「ブラウン管の思い出」 by 杉田洋子 | 発見!今週のキラリ☆ トップへ | vol.107  「テレビは師」 by 藤田庸司 »

vol.106 「テレビは師」 by 藤田庸司


4月のテーマ:テレビ

3月、4月はMTCの面談月間。次の学習プログラムに進む受講生、培ったスキルを武器に新たな就業形態を模索する修了生、質問や悩みは様々だが「どうすれば日本語が上手になりますか?」、「適切な情報の取捨選択にコツはありますか?」など、翻訳テクニックに関するものが大半を占める。

ただ最近思うのは、話しを聞いていると、多くの方の意識は"映像翻訳"の"翻訳"のほうにフォーカスしていて"映像"には目が向いていない印象だ。"映像翻訳"は文字通り"映像"と"翻訳"が一体となって成立するユニークな翻訳ジャンルで、どちらか一方が欠けると全く意味を成さなくなる。それほど重要な"映像"にもう少し注目してもいいのではないだろうか。
MTCでは"メディアセンス"という言葉をよく使う。世間的に確たる定義がある言葉ではないので各業界によって使われ方は異なるかもしれないが、映像翻訳の世界でいえば"メディアに対するその人の感覚・感性"、MTC風に分かりやすく言うと"映像コンテンツのテーマやトーン、ストーリーの流れなどを捉える勘やセンス"といったところだ。
そして実はそのメディアセンスなるものが、先に書いた質問を解決する鍵となることが多い。
「どうすれば日本語が上手になりますか?」という質問に、僕はよく「テレビをたくさん見ましょう。」と答える。テレビの中には手本となる素晴らしい日本語が溢れている。何の気なしに楽しく見るのも悪いことではないが、日本語を扱う職業に携わる者としては、そこで使われている言葉について敏感になってほしい。例えばアナウンサーの口調や使っている言葉は、ドキュメンタリー作品に字幕をつける際のナレーション部の参考になる。他にもインタビュアーの口調や質問内容、それに答えるゲストの言葉、ドラマの登場人物のセリフなど、特徴を研究し、盗み、原稿を書く際に生かしてみよう。オープントライアルの原稿をチェックしていると「この人は普段ドキュメンタリー番組やニュースをよく見ているんだろうな」とか、「この人は海外ドラマをよく見ているんだな」とか、字幕の口調や文章のトーンで驚くほど分かる。一朝一夕にとはいかないが、心がけ一つで日本語表現力は確実にアップしていくはずだ。
「適切な情報の取捨選択にコツはありますか?」という質問に関しても同様、ヒントはテレビの中にある。国内外問わず、番組や映像作品にはきちんとしたテーマや、それを表現するための練りに練られた構成が存在する。多額の資金を投入して、脚本を用意し、視聴者数を見込んで多くの制作スタッフがコンテンツを作っているわけで、カメラマンが思うがままにカメラを回し「はい、出来ました!」と世に出しているわけではない。
そして、よく見ていくと、番組というものにはある種のパターンのようなものがあったり、似たような構成やストーリー展開が出回っていたりする。
「あれ?これってあのドラマそっくりじゃない?」という映画に遭遇したり、ドキュメンタリー番組を見ていて「この手の作品って絶対この始まり方だよね。それで最後はこれで終わるんだよね」と感じたり、サスペンスドラマを見ていて、冒頭の5分で誰が犯人かおぼろげに分かったりしたことがあるだろう。
情報の取捨選択で迷う方や、字幕の流れを作るのが苦手な方はそうした作風、作品の構成パターンを掴むのが苦手なのではないだろうか。言わずもがな、映像翻訳の場合、文字数制限や尺合わせの都合上、情報をカットしたり、大きくまとめて簡易化しなければならない。しかしその情報カットはあくまでも日本語を制限文字数の中に収めるためや、ボイスオーバーの尺合わせのためで、本来は原文にある情報をすべて出したいところを泣く泣く削除、省略するわけだ。ではその見極めはいかに?答えは映像が持つテーマとストーリーの流れ(構成)を熟知することにある。
情報の取捨選択で迷う方や字幕の流れを作るのが苦手な方は、作品の一部を断片的に捉えているような気がする。そうではなく、映像の頭からお尻までの構成、作品のテーマ、登場人物の役割とその意味、すべてを汲んだうえで、"番組全体"を大きく捉えてみよう。作品全体を見ることができれば、「この情報は絶対にカットできない」とか「ここでこの情報を出しておかないと、後の展開が分かりづらくなる」などが自ずと見えてくるはずだ。映像翻訳者にとってテレビの中は宝の山。是非、研究してスキルアップに利用したい。