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vol.101 「"鬼"をなんという。」 by 浅川奈美


2月のテーマ:鬼

「鬼」ですか。
自分の生活の中で「鬼」を意識することなんて、まぁーない。コンビニで鬼の面と恵方巻のポスターを見つけて、「あー、そういえば節分か」ぐらいなものですよ、私と鬼の接点なんて。記憶をたどる。最近接触した鬼...。
昨年の秋、銀河劇場で観た舞台『薄桜鬼』。人気恋愛シミュレーションゲームが舞台化!大衆演劇界のプリンス、流し目王子こと早乙女太一が主演!
......。
すみません。広がりません。流し目王子って言いたかっただけです。このゲームもやったことないです。本当です。

気を取り直して、また「鬼」について考える。
「仕事の鬼」、「鬼課長」、「鬼軍曹」、「鬼将軍」、「鬼のような人」 等等。「鬼」のホンモノに出会うことはまずないものの、日本語では人の様子を表す比喩として「鬼」を用いることが多いようである。身近に思い当たる人はいないだろうか。

さらに広辞苑で「鬼」を調べてみると、固有名詞などを含めて「鬼○○」がずらーっとでてくる。ちょっとひいてしまうくらいの数だ。いくつか気になったものを挙げてみた。

【広辞苑より】
■おに‐やく【鬼役】
主人のために飲食物の毒見をする役。鬼番。
――勇敢な家臣がいい事をしているのに、なぜかとっつきにくい役職名。

■おに‐むしゃ【鬼武者】
きわめて勇猛な武者。荒武者。
――武者だけでも強そうなのに、無敵感がマンマンです。余談だが「武者頑駄無」を知っているだろうか?「武者」も負けじとすごい広がりをみせている例。

■おに‐わらわ【鬼童】(‥ワラハ)
ミノムシのような姿の童。枕草子138「使にいきける―は」
――ミノガ科のガの幼虫ですよ、ミノムシって。コレは言われて嬉しいことなのか。不明。

■おに‐ふうふ【鬼夫婦】
性格など似ない者同士の夫婦。
――使用方法がいまいち不明。と思っていたらデジタル大辞泉に、 「1 残酷で無慈悲な夫婦をののしっていう語」ってあったから、多分、今後周囲に対し使うことはない。ことを願う。

■おにのままこ【鬼の継子】
狂言の一。鬼が、夫と死別した女に会い、子をかわいがれば妻になろうといわれて子供をあやすうち、本性が出て一口に食おうとする。「鬼の養子」とも。
――食べちゃったら、絶対お嫁さんになってもらえないんだからね。ちょっと考えれば分かるよね。本能に負けるな、鬼!理性を働かせろ。

■おに‐むすめ【鬼娘】
*屍体(したい)を食うという娘。*気の強い娘。*奸悪(かんあく)な娘。*醜く恐ろしい姿の娘。
――まじで怖すぎる。ごめんなさい、許してください。

■鬼も十八、番茶も出花
鬼でも年頃になれば美しく見え、番茶も出ばなはかおりがよい。どんな女でも年頃には女らしい魅力が出るという意。
――本当だね、本当だよね。もう、屍体とか食べないようになるんだね。

■鬼瓦にも化粧
醜い容貌の者も、化粧次第で美しくなる。
――昔の人は、ひどいことを言ったものだ。もはやいつ使っていいか分からない。

■鬼を酢にして食う
恐ろしいものを何とも思わないことにいう。
――森3中もビックリの珍味!と思いきや、なるほど味のある表現だなと感心。


日本人が鬼の絵を描けと言われたら、こうだろう。マッチョなボディーにワイルドな短パン。角あり牙あり。片手に金棒。「まんが日本むかしばなし」の影響は計り知れないと思うが、老若男女、大体が同じフォルムを描くのではないだろうか。すごい知名度だ。概念的なモノに対し、ある程度共通の認識が持たれているってことは、ヤツは只者ではない。私の日常には「鬼」との接点がない!と断言していたが...。いやいやあります。きっと結構あります。

現在私は、日英映像翻訳講座と英語クリエイティブ・ライティングコースの開発をしている。日英翻訳において最もチャレンジなのは、日本人が当たり前に思い描けるもの、定訳の無いような日常的な挨拶、はっきり説明が出来ないけど習慣的に使っている言い回し、文化的要素の強い表現などを英語化していくというところだ。どう届けるか。自分の当たり前を、英語の当たり前としてどう味付けしていくか。難しい。だがそのチャレンジこそが日英翻訳の醍醐味でもある。毎週の授業では、こういう表現においても白熱したディスカッションが行われる。

「鬼ほにゃらら」の表現を聞いた時に日本人が思い描くあのニュアンスは、どう英語にしたらいいのだろう。下記は、とある辞書に出ていた例文と訳例。どうかなぁ。伝わっているかなぁ。
■ 例文:「鬼も十八、番茶も出花」というが、あの子もこのごろきれいになった。
She looks quite pretty these days. 'Sweet sixteen,' you know.

■ 例文: 来年のことを言うと鬼が笑う.
Nobody [God] knows what may happen next year.

■鬼の居ぬ間に洗濯
When the cat's away, the mice will play. 【諺】

■鬼の霍乱
the devil succumbing to sunstroke / a man of Herculean constitution falling ill.

■例文:兄は入試に合格して鬼の首を取ったように鼻高々だ。
My brother is triumphantly boasting of his success in the entrance examination.

■鬼の目にも涙
Even the hardest heart will sometimes be moved to pity.

最後に、日本を代表する、ある意味「鬼」オールスターズ総出演的なホームドラマ。
『渡る世間は鬼ばかり』
このタイトル上手く英訳できる人いないですか?