発見!今週のキラリ☆

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vol.102 「鬼心」 by 相原拓


2月のテーマ:鬼

どうすればトライアルに受かるのか、みなさん知りたいですよね。残念ながら簡単な答えはありませんがアドバイスならあります。字幕をたくさん見ること、英語力を上げること、日本語を磨くこと、などなど。ただ修了生のみなさんにとっては、どれも分かり切ったことでしょう。では、どうすればよいのか。僕が最近聞いたある先輩ディレクターの言葉にひとつの答えがありました。それは、「心を鬼にすること」です。

いまいちピンとこないという声が聞こえてきそうですが、具体的には翻訳原稿を見直す時に心を鬼にするということです。これが簡単そうで難しい。なぜなら自分の原稿は"我が子のようにかわいい"からではないでしょうか。僕が受講生だったころ、毎週20時間以上かけて仕上げた原稿に先生やクラスメートからするどい突っ込みが入り、その度に落ち込んでいました。基礎Iのころは特に。それが基礎IIになると徐々に免疫がついてきて、実践を修了するころにはどんなに細かい指摘でも大歓迎するようになりました。他人の視点を素直に受け入れると、自分の翻訳を客観的に見る力が身につことに気付いたからです。

先ほどの先輩の話に戻りましょう。例の言葉を初めて聞いたのはチーム翻訳の現場でした。顔合わせの時に4人の翻訳者さんに先輩はこう言いました。「心を鬼にしてお互いの原稿をチェックしてください」。ちょっと変わった指示にみんなが戸惑うなか作業は始まりました。しかし、チームが打ち解けていくうちに厳しくも建設的なフィードバックが飛び交うようになり、原稿の質は見る見る上がっていきました。その結果、1本の映画に素晴らしい字幕を付けることができたのです。

チーム翻訳を例に挙げましたが単独作業も基本的には同じだと思います。どれだけ経験を積んだプロでも一発で完璧な原稿を納品できる翻訳者はそういません。しかし、チーム翻訳でなくても周りにいる人(例えば家族やクラスメートなど)に意見をもらうことはできます。視聴者の率直な意見として取り入れて原稿を練り直していけば、質は自然と上がります。少なくとも下がることはないでしょう。

もし一発で(しかも自力で)完璧な原稿を出せる翻訳者がいるとしたら、その人は常に心を鬼にして自分の原稿と向き合っているに違いありません。トライアルに受からないと悩んでいる方がいたら次回から鬼に化けることをお勧めします。その心構えで挑戦すればきっと結果は出るはずです。