発見!今週のキラリ☆

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vol.100 「鬼の思い出」 by 野口博美


2月のテーマ:鬼

今月のテーマは「鬼」。自分で決めたテーマとはいえ、いざ書くとなると何も思い浮かばない...。悩んだあげくに誰より鬼を恐れていた人が身近にいることに思い至った。2歳年下の弟だ。

幼い頃、弟は異常に鬼を怖がっていた。当時5歳くらいだった私と3歳の彼は寝るときに指をしゃぶるクセがあったのだが、それをやめさせようと父親が強硬手段に出た。
「指しゃぶりをやめないと、鬼が来てさらわれちゃうんだぞ」と私たちの見えないところで「ほら、もうそこにいるからな」とか言いながらドンドンと足を踏み鳴らしたのだ。
そんなの信じるわけないじゃんと冷めた目で見ていた私を尻目に弟はそれを本気にし、
その日からきっぱり指しゃぶりとおさらばした。
その後、数年にわたり悪癖が直らなかった私はというと、歯列矯正をするハメになり素直さは美徳だなと今回あらためて感じた。

話がそれてしまったが、弟の鬼嫌いエピソードは他にもある。
たぶん指しゃぶり事件と同じ年の節分に、私は幼稚園で鬼のお面を作って家に持ち帰った。
しかし次の日、お面は忽然と姿を消してしまった。どこへ行ったのかと母親と探し回ったが、どうやら弟がごみ箱に捨てたらしい。
彼は決死の覚悟でお面を捨てたのだろう。当時は怒り狂ったが、親指と人差し指でお面をつまみながら、そろそろとごみ箱に近寄る彼の姿を思い浮べると微笑ましい。

鬼だけでなく、彼はあらゆるものに恐怖心を抱いていた。ディズニーランドではミッキーマウスを見て逃げまどい、東京タワーではイベントか何かでいたドラゴンボールのキャラクターに追い掛け回されて泣きわめいていた。要するに憶病者だったのだ。

そんな彼も今では立派に成長し、なんと今週末、結婚式を挙げることになった。
先を越された姉としては祝福したくもあり寂しくもあり複雑な心境だ。

姉弟ゲンカは窓をぶち割るほど激しかったし、彼を顎で使うこともあった鬼のような姉だったが、大人になってからは割と仲が良くなった。憶病さは微塵も見せなくなり、別人のようにたくましく成長した弟だが、これからもこのままいい関係でいられたらと思う。