発見!今週のキラリ☆

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vol.119 「「種火」を絶やさない人」 by 新楽直樹


9月のテーマ:炎

人が新たな職能を手にして歩み出す瞬間を見守る仕事に携わってから二十年になる。

スクールに入る前の人からよくこんな質問をされる。「どんなタイプの人が成功するのですか?」。そう尋ねたい気持ちはわかるが、難問である。「真面目に取り組んでスキルを習得した人」と言いたいところだが、必ずしもそうではないことも知っている。それだけでは何かが、しかも決定的な何かが足りない。

その「何か」だが、私なりの自論はある。胸の内に「種火を絶やさない人」と「種火がない人」。一見すると見分けがつかないが決定的な差だ。心に種火が灯っている人は、教育や助言、発見、新たな出会いを発火材として自ら燃え上がる素養を秘めている。一方、種火のない人は、様々なものに接しても、暖を取ることはできるが自らは決して燃え上がらない。燃えたつもりでも、もらっただけの炎は一夜で鎮火する。

どこに行っても、何をやってもそれなりに楽しみ、何かを得、自分の居場所を見つけ出す人がいる。種火があるからだ。そんな人は自らの火の色を気にしない。青くても赤くても、燃え上がることそのものに喜びと生きる実感を感じ取り、笑顔でさらに燃え上がろうとする。その美しさに惹かれ、よき人やよき言葉、そしてよき機会は向こうからやってくる。それを糧としてさらに燃え上がる。つまり成功者となる。

種火を持たない人も、同じようにはする。今の自分に満足できず、何かを変えたいと願う。それには新たな出会いや言葉が必要だとも感じている。そこで、発火材や燃焼材を呼び込むためにと、自分を魅力的に変える行為にエネルギーを費やし始める。見た目を整え、心を整えるために必要な情報を集め、お金や時間を投資する。

しかし、肝心要の種火がないから、決して炎には発展しない。あらゆる努力は浪費かひまつぶしで終わる。「自分探し」という耳に心地よい言葉を頼りに、ゆらゆらと彷徨う人であり続ける。ドラッカー博士の箴言を熟読しても、成功者に擦り寄って仲間になったつもりでも、一瞬帯びた熱の源が自らの炎ではないことに気づかない。冷めればまた振り出しに戻る。

では、種火を宿すにはどうすればいいのか?

その答えは「今」にある。逆説的であるが「この先を夢想するな」とアドバイスしたい。今、目の前にある訓練や仕事、人間関係の構築に集中する。自分に合わないとか、目標と違うとか、他にいいチャンスがあるとか、そんな言い訳を考える時間を惜しみ、目の前のことに死力を尽くすのだ。その濃密な空間と時間の中で生まれた粒子たちは交差し、摩擦し合い、熱を帯びていく。その熱が臨界に達した瞬間、「ボッ」という小さな音とともに炎が生まれる。それがあなたの種火だ。

そうなれば、その場に止まろうと、旅立とうと、成功を引き寄せることができる。こうした過程にある人を見ると(ああ、この人は大丈夫だな)と思える。

この見方は、成功者から真の教訓を得るコツにもつながる。燃え上がる炎の色や大きさに目を奪われてはいけない。その人が本物の成功者であれば、炎の根っこの部分に自らの意思と努力で灯した種火が揺らめいているはずだ。少なくとも私はその景色に魅力を感じる。今、種火を生む過程の人であってもその行為は美しい。だから応援したいと思うのだ。