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2011年10月 アーカイブ

vol.115 『リトル・ランボーズ』 by 杉田洋子


10月のテーマ:憧れ

あまり肩ひじ張らない映画が観たいなと思い、特段前知識もなく借りてきたこの
作品。
よく考えると普段あんまり子どもが主役の作品って観てないかもしれない。
しかしふたを開けてみたら、観てる間始終笑ったり泣いたりで、見応えたっぷり
の映画だった。

舞台は1982年のイギリス郊外。同胞教会の厳しい戒律の元で育てられた内気な少
年ウィル・プラウドフットと、学校切っての問題児リー・カーター。一見対照的な
2人の小学生が出会い、ひょんなことから一緒に映画を作ることになる。

2人をつないだのは、あるときカーターの家で観た映画『ランボー』だった。カー
ターは裕福な家庭に暮らすものの、母親は年中家を留守にしており、ひそかに孤
独を抱えていた。一方で、映画製作にあこがれ、兄のビデオカメラをこっそり持
ち出しては映画を撮っていた。一方、テレビをはじめ娯楽を禁じられていたウィ
ルは、画面の中で活躍するたくましいスタローンの姿に衝撃を受ける。
そして"僕はランボーの息子だ!"と張り切って撮影に臨むことになったのだ。
こうして波乱万丈な2人の映画作りがスタートした。

子どものすごいところは、やる前に限界を決めてしまわないところだと思う。
大人に比べて、能力も手に入るものも限られているけど、"こんなこと無理!"
という壁を作らないぶん、可能性は無限大だ。見よう見まねで映画を撮り、過激
なスタントにもやる気満々で挑む。使える道具はなんだって使う。大人たちが鼻
からあきらめてしまうようなことを、純粋な憧れという動力でやってのけてしまう。
(そんな子どもたちが憧れているのは、他でもない大人たちのしていることだっ
たりするのだけれど...)

一方で、子どもの社会は大人社会の縮図でもある。そこには曲がりなりにも序列
があり、個々の立場はふとした瞬間に入れ替わる。じわじわと人望を得ていく者
や彗星のごとく現れるカリスマ的存在、逆に敵視され排除されていく者...。彼
らの盛衰は第三者であるその他大勢(取り巻きたち)に左右される。両者はたが
いに翻弄されながら、勢力図を日々塗り替えてゆくのだ。

そんな刹那的な人間関係の中でも、生き続けるものがある。夢、そして友情。
さまざまな障害に、絶望して打ち砕かれそうになっても、それが本物なら決して
失われはしないということを、子どもたちは教えてくれる。

ユーモアも満載で、脇役までキャラが立ってる。小気味よいテンポで、起承転結
が展開してゆく。ほっこりするのに笑える、かなりオススメの1本です!
個人的な注目ポイントはカーター役のウィル・ポールター君のいたずらっぽいは
にかみ笑顔。かなり母性本能をくすぐられます...。したり顔から憎しみ顔までい
ちいち表情が秀逸!

何かにまっすぐに突き進んでゆく、ピュアな情熱を忘れたくないあなたに!!!

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『リトル・ランボーズ』
監督:ガース・ジェニングス
出演:ビル・ミルナー、ウィル・ポールター、エド・ウェストウィック他
製作国:イギリス、フランス
製作年:2007年
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vol.116 『ゼブラーマン』 by 藤田庸司


10月のテーマ:憧れ

先日の日曜日、自宅で作業をしていると、近所の子供たちが"何とかレンジャー?ごっこ"なるものをする声が聞こえてきた。最近の"正義のヒーロー"事情に詳しいわけではないが、彼らの「俺レッドだから、お前はブルーな。」、「いや、俺は前からレッドだったから、お前グリーンでいいんじゃね?」などというやりとりから、おおよそ色分けされたヒーロー戦隊のキャラ取りでもめているのだろうと察しがつく。昭和生まれの僕は仮面ライダーごっこをして育ったが、平成になってから23年経った今でも正義のヒーローに憧れる子供の心は変わらないようで何となくホッとした。窓から入ってくる金木犀の香りも手伝い、少々ノスタルジックな気分になった僕は、愛すべき正義のヒーローが登場する映画が観たくなりレンタルDVD店へ赴いた。

~白と黒のエクスタシー~『ゼブラーマン』

唐突だが、字幕翻訳におけるスキルアップの相談を受けたとき、僕はよく「番組の構成やストーリー展開のパターンを掴みましょう」と話す。それは洋画や海外のドラマ・ドキュメンタリー番組に限らず、民放のバラエティ番組、スポーツ番組、クイズ番組、すべてに存在していて、意識して観ると気づくはずだ。それを知り、番組の主張する世界感を掴めると、的外れな字幕の流れにはならない。そして『ゼブラーマン』には"ゴールデンルール"ともいうべき、正義のヒーローものには欠かせない要素が見事に盛り込まれている。
※以下、ネタバレ注意です。

~『ゼブラーマン』に見る正義のヒーローものゴールデンルール~
①主人公は正義のヒーローに変身するまでは冴えない一般人。
②正義のヒーローはマシン(バイク・車など)を操る。
③宿敵は異常に強く、ヒーローはピンチに陥るが危機一髪で逆転勝利する。
④正義のヒーローを信じる、心にキズを負った少年が登場する。少年はヒーローのおかげで心の病を克服する。
⑤敵キャラは悪者ではあるが極悪ではなく、ややオチャメな面あり。
⑥必ずハッピーエンド。

お決まりの展開だが、そのお決まりの展開を期待し、
結末は分かってはいるがヒーローを心から応援してしまう。
空を飛べなければ強敵には勝てないことを知り、空を飛ぶ特訓をするゼブラーマン。
ボロボロになりながら口にするセリフが心に響く。

「信じれば、必ず夢は叶う」。

⑦正義のヒーローは観る者に夢と希望を与えてくれる。

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『ゼブラーマン』
監督:三池崇史
出演:哀川翔、鈴木京香、渡部篤郎他
製作国:日本
製作年:2003年
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