今週の1本

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2011年11月 アーカイブ

vol.117 『ダーティハリー』 by 浅野一郎


11月のテーマ:仕事

"大人になったら何になりたい?" 小学生あたりで聞かれる定番の質問だ。僕は、その質問をされると必ず「刑事」と答えていた。渋すぎる小学生だ。
それこそ、「ケーキ屋さん!」とか「サッカー選手!」などの答えが模範例だった中では異例の回答だった。
しかも、単に刑事になりたいというだけでなく、サンフランシスコ市警の刑事になることしか頭になかったのだ。

そのきっかになったのが、今はすっかり監督業のほうが馴染み深くなった感のある、クリント・イーストウッド様主演の「ダーティハリー」だ。サンフランシスコ市警のハリー・キャラハン警部は、人の忌み嫌う仕事ばかりさせられているため、署内では"ダーティハリー"の異名で呼ばれているが、一たび犯人と向かい合うと、有無を言わさず愛用の44マグナムをぶっ放し、事件を解決するというヒーローぶりを発揮する。
こう書いてしまうと、後年、刑事映画のパロディで爆発的な人気を博した、「探偵マイク・ハマー 俺が掟だ!」のような破天荒な陽気さを想像するかもしれないが、ハリーはスーパー・ニヒルで、どこかでいつも自分の仕事に疑問を感じているような暗い雰囲気を漂わせている。

本作のラスト、ラロ・シフリンの物哀しい曲をバックに、警察バッジを投げ捨てるシーンは、あまりにも切なく、あまりにも格好良すぎる。
このシーンだけでもいいので、是非、観てほしい。

ヒーローなのに世間に受け入れられず、ついには、その職に別れを告げることになるが、それでも、何一つ恨み言を言わない...
この姿に憧れ、幼少の頃の僕は、ひたすらハリーに憧れ、サンフランシスコ市警での勤務を熱望していた。
その熱が高じて、小学校の登下校時には、親にねだって買ってもらった44マグナムのモデルガンをショルダーホルスターに入れて持ち歩いていたものだ。
いま考えると、相当にヤバイ小学生だ。巨大すぎて自分の手の平に収まりきらない、重すぎて引き金を引くことさえできないハンドガンを持ち歩く(正確に言えば、ショルダーホルスターに入れて、身に着けていた)小学生になんて、絶対に会いたくないし、来世、同じことは恐らくしないだろう。
しかし、"モデルガンを持ち歩いていたら先生に怒られるかも..."という普通の小学生が抱くであろう恐れなど、いとも簡単に忘れ去るほどに、僕の中で「刑事(=ハリー)」という職業は憧れだったのだ。

時が経ち、日本国籍ではサンフランシスコ市警の警官にはなれないこと、百歩譲って日本で警官になったとしても、38口径のニューナンブしか携行できないことが少しずつ分かってきて、刑事への夢は急速に薄れていった。

しかし、今でも1人になると、"おっと、お前が何を考えているか分かるぞ。俺が6発撃ったのか、まだ5発なのか考えてるんだろ? 実は俺も夢中になって覚えてないんだ。(中略)どうする? 試してみるか? おい、どうする!?" という名セリフを口にしている。
刑事になることは諦めたが、山田康夫さんの吹替えバージョンにて、今でもハリー・キャラハンになることは諦めていない。

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『ダーティハリー』
監督: ドン・シーゲル
出演: クリント・イーストウッド
製作国: アメリカ
製作年: 1972年
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vol.118 『バクマン。』 by浅川奈美


11月のテーマ:仕事

ある業界で活躍する人やその道の"プロフェッショナル"をフィーチャーし、その人の生き様や哲学を紹介する番組というのがよくある。比較的そういうものには興味がある。視聴後はそれなりに何かを学んだ気持ちになり、またそれが自分を鼓舞するきっかけとなることもしばしば。
「プロってどういうことか」
それを痛いまでに私に投げかけてきた作品があった。『バクマン。』をご存知だろうか?最近電車の中吊り広告で目にした人もいるかもしれない。


2008年より『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて連載中のマンガ作品。TVアニメ化され2010年10月2日から2011年4月2日まで、NHK教育テレビジョンにて第1シリーズが放送。2011年10月1日より第2シリーズが開始し、現在放送中だ。(公式サイト等では『バクマン。2』と表記)。原作のファンでもある私はもちろんアニメも欠かさず視聴している。
作者は、原作・大場つぐみ、作画・小畑健。『DEATH NOTE』を世に送り出したあのゴールデンコンビといえば分かるだろう。少年コンビがマンガ家を目指しもがき苦しみながらも「努力」で壁を乗り越え活動していく姿を描いたストーリー。
高い画力で作画を担当する真城最高と、文才に長けた高木秋人が主人公である。

「少年雑誌に連載されている人気漫画でしょ? 私にはちょっと...」

『バクマン。』はそういううがった見方を大いに裏切ってくれる。
徹底して描かれているリアルな世界が、この作品の大きな魅力のひとつ。大人たちまでも納得させ、ストーリーにぐいぐいと引き込んでいく。
例えば、集英社という大手出版社の編集システムや原稿料、毎日のように持ち込まれる企画への対応、またその編集者の所作ひとつ一つが意味するところ、連載作品に対する評価がアンケート至上主義である点や専属契約制度など、「少年ジャンプ」という実名や編集部にまつわる固有名詞を作中に出しながら赤裸々に描いている。このリアリティが作品に緊張感と臨場感を与えている。

これは、ファンタジーや、現実離れした王道バトル、冒険活劇マンガではない。
描かれているのは、マンガ雑誌での「連載」を勝ち取り、つづけること。選ばれた者たちとプロの編集者が繰り広げる日常。そう、生き馬の目を抜くようなガチの大人の世界が繰り広げられる。
あえて言おう。原作が連載されているのは、読者層があがってきているとはいえ、メインターゲットが小中学生という少年雑誌だ。マンガ家を目指す少年少女たちに、オブラートにくるんだような漠然とした夢物語は一切見せない。
あるのはリアル。本当の厳しさ。この国の大人たちがなし崩しにしている手本にもならない現実の世界より、よっぽど教育にいい。


マンガは面白ければいいんだ
面白いものは連載される 当たり前だ
(by佐々木編集長)

面白い作品を天才的な才能で描ける者もいれば、もがき苦しみながら作り上げていく者もいる。
『バクマン。』の主人公は後者である。現在放映中の第2シリーズで彼らが連載しているマンガは探偵モノ。作品の面白さを追求するため、原作を担当する高木と担当編集者は、ミステリ小説、映画、マンガなどを買いあさり徹底的に研究する。男女間の会話を生き生きさせたい場合は、メロドラマや恋愛ものからテイストを盗んでいく。
作家、アシスタント、編集者、デスク、編集長、そしてライバル...。
「おもしろい作品」を作り上げていく、この一点に向かって関わる全ての人たちの「プロフェッショナル魂」がなんといっても熱い。


先日OAされた、第6話「病気とやる気」を観ながら号泣した。

「大好き」を実現し、仕事としてやりつづける。夢は苦しさを乗り越えたその先に叶うもの。いろいろある世の中だけど、でも、そういうのってまだ死んでないよ。

そういうメッセージをリアルな題材と世界観でみせてくれる作品。
プロを目指すことって、そしてプロであり続けることって、今までも、そしてこれからも変わらないこういうものだと思う。

そういうメッセージをマンガとかアニメはちゃんと教えてくれている。
こういうことって教科書よりも大事なことかもって思う。そして、やっぱり日本のマンガやアニメはすごいなって思う。

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『バクマン。2』 
毎週土曜日 午後5:30~ NHK EテレにてOA中
声の出演 :阿部敦(真城最高) 、日野聡(高木秋人)、
        早見沙織(亜豆美保)
監 督 :カサヰケンイチ、秋田谷典昭
アニメーション制作:J.C.STAFF
製 作 :NHK、小学館集英社プロダクション
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