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vol.117 『ダーティハリー』 by 浅野一郎


11月のテーマ:仕事

"大人になったら何になりたい?" 小学生あたりで聞かれる定番の質問だ。僕は、その質問をされると必ず「刑事」と答えていた。渋すぎる小学生だ。
それこそ、「ケーキ屋さん!」とか「サッカー選手!」などの答えが模範例だった中では異例の回答だった。
しかも、単に刑事になりたいというだけでなく、サンフランシスコ市警の刑事になることしか頭になかったのだ。

そのきっかになったのが、今はすっかり監督業のほうが馴染み深くなった感のある、クリント・イーストウッド様主演の「ダーティハリー」だ。サンフランシスコ市警のハリー・キャラハン警部は、人の忌み嫌う仕事ばかりさせられているため、署内では"ダーティハリー"の異名で呼ばれているが、一たび犯人と向かい合うと、有無を言わさず愛用の44マグナムをぶっ放し、事件を解決するというヒーローぶりを発揮する。
こう書いてしまうと、後年、刑事映画のパロディで爆発的な人気を博した、「探偵マイク・ハマー 俺が掟だ!」のような破天荒な陽気さを想像するかもしれないが、ハリーはスーパー・ニヒルで、どこかでいつも自分の仕事に疑問を感じているような暗い雰囲気を漂わせている。

本作のラスト、ラロ・シフリンの物哀しい曲をバックに、警察バッジを投げ捨てるシーンは、あまりにも切なく、あまりにも格好良すぎる。
このシーンだけでもいいので、是非、観てほしい。

ヒーローなのに世間に受け入れられず、ついには、その職に別れを告げることになるが、それでも、何一つ恨み言を言わない...
この姿に憧れ、幼少の頃の僕は、ひたすらハリーに憧れ、サンフランシスコ市警での勤務を熱望していた。
その熱が高じて、小学校の登下校時には、親にねだって買ってもらった44マグナムのモデルガンをショルダーホルスターに入れて持ち歩いていたものだ。
いま考えると、相当にヤバイ小学生だ。巨大すぎて自分の手の平に収まりきらない、重すぎて引き金を引くことさえできないハンドガンを持ち歩く(正確に言えば、ショルダーホルスターに入れて、身に着けていた)小学生になんて、絶対に会いたくないし、来世、同じことは恐らくしないだろう。
しかし、"モデルガンを持ち歩いていたら先生に怒られるかも..."という普通の小学生が抱くであろう恐れなど、いとも簡単に忘れ去るほどに、僕の中で「刑事(=ハリー)」という職業は憧れだったのだ。

時が経ち、日本国籍ではサンフランシスコ市警の警官にはなれないこと、百歩譲って日本で警官になったとしても、38口径のニューナンブしか携行できないことが少しずつ分かってきて、刑事への夢は急速に薄れていった。

しかし、今でも1人になると、"おっと、お前が何を考えているか分かるぞ。俺が6発撃ったのか、まだ5発なのか考えてるんだろ? 実は俺も夢中になって覚えてないんだ。(中略)どうする? 試してみるか? おい、どうする!?" という名セリフを口にしている。
刑事になることは諦めたが、山田康夫さんの吹替えバージョンにて、今でもハリー・キャラハンになることは諦めていない。

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『ダーティハリー』
監督: ドン・シーゲル
出演: クリント・イーストウッド
製作国: アメリカ
製作年: 1972年
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