今週の1本

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2011年12月 アーカイブ

vol.119 『サンタクロース』 by藤田奈緒


12月のテーマ:プレゼント

朝から目まぐるしい1日を過ごし、冷たい雨の降る中、凍えながら帰宅すると、マンションの入り口にクリスマスツリーが出ていた。ああそうか、もうクリスマスシーズンなんだ。薄暗いスペースでチカチカと光るライトを見ていたら、何だか少し心が温かくなった気がした。

昔からクリスマスの時期になると思い出す大好きな映画がある。伝説のサンタクロースが悪人たちから子どもたちを救うというファンタジー映画、その名もずばり『サンタクロース』。私もいい大人なので、もちろんサンタクロースに幻想を抱いたりはしていないけれど、子どもの頃に映画館で観て以来、この映画に出てくるサンタとそれを取り巻く世界が、私のイメージする"クリスマス"となった。

毎年クリスマスの夜になると、近所の子どもたちにおもちゃのプレゼントを配って回る老人クラウス。ある年、トナカイに乗って妻と家に向かっていると、不思議な光に導かれて北極に向かう羽目に。クラウスはそこで待ち構えていた妖精たちに頼まれ、彼らの作ったおもちゃを世界中の子どもだちに配ることになる。これが"サンタクロース"の誕生秘話。

100年後、クラウスサンタの人気に嫉妬した悪い妖精が、人間界の悪徳おもちゃ会社と結託して悪巧みを働こうとする。彼らが売り出した、食べると体が軽くなり、熱をあてると爆発する危険な「パープル・キャンディー」のせいで世界は大混乱。事情を知ったサンタクロースは子どもたちを救うために立ち上がる...。

恐ろしくベタなストーリー展開であることは認めよう。それでも私はこの映画が大好きなのだ。もはや物語の内容など関係ないのかもしれない。妖精たちの住む世界、カラフルで楽しげなおもちゃ工場、ソリに乗って夜空をトナカイとひた走るサンタクロース。食べると体が宙にふわふわ浮いてしまう不思議なキャンディー。映画を観たあと、あのキャンディスティックを買いに連れていってくれと母親にねだったっけ。

おとぎの国と実社会の境界のまるでない映画の世界は、とんでもなく魅力的で、幼い私の心をガッチリつかんでいまだ離さない。大人になるまでのどこかの段階でサンタクロースは存在しないことを知ったけれど、実は今でもちょっぴり心の片隅で私は信じている。12月の肌寒い夜がやって来ると、どこかで忙しくしているサンタのためにホットココアを用意したくなるのだ。

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『サンタクロース』
監督:ジュノー・シュウォーク
出演:ダドリー・ムーア、ジョン・リスゴー他
製作国:アメリカ
製作年:1985年
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vol.121 『スモーク』 by桜井徹二


12月のテーマ:プレゼント

「『スモーク』は、魂と肉体をさらけ出して生きることの意味を探る男女の葛藤を、大胆な官能描写を交えて映し出す」と、レンタル店のポップに書かれていた。...魂と肉体をさらけ出す? 大胆な官能描写?

 このポップは、この原稿を書くためにいい作品はないかと店内を歩き回っていた時に見つけた。『スモーク』は好きな映画で何度か観たこともあるし、ポール・オースターの原作も読んだ。でも大胆な官能描写があったような記憶はぜんぜんない。

 と思いながらも、絶対にないと言い切ることもできなかった。なにせ最後に観たのは5年も6年も前だし、そもそも記憶力にはまるっきり自信がない。「官能描写」というのもあいまいで幅が広い表現だし、ハーヴェイ・カイテルと老女が頬を寄せ合っているジャケット写真も官能的といわれれば官能的に見えなくもない。

 そんなことを考えているうちに、ふと『スモーク』には今月のテーマである「プレゼント」にまつわる話が出てくることを思い出した。それにポップの文章からすると、覚えているつもりで覚えていないストーリー展開があったのかもしれない。原稿も書けるし、新たな発見があるかもしれない、と思って借りてみることにした。

 主人公はタバコ店を経営する中年男性オーギー。物語は彼のタバコ店を中心に展開する。オーギーの長年の習慣、常連客である作家の悲話、その作家の家に転がり込んできた黒人青年の父親探し、店番中のオーギーの前に突然現れた昔の恋人...といった具合に、さまざまな登場人物にまつわる物語がオムニバスのような形式で展開する。そして最後は、オーギーが「実話」として語る、奇妙な感慨を呼び起こす物語――ある老女の家で小さな盗みを働いたという話――で終わる。

 うん、やっぱり『スモーク』はいい作品だった。けれど、ポップに書かれていたような要素はまったく見当たらない。おかしいなと思って再度レンタル店に行ってポップをよく見ると、「ジェーン・カンピオン監督による...」という文言もあったことに気づいた。調べてみると、どうやらこの文章はカンピオンの『ホーリー・スモーク』と混同して書かれたもののようだった。

 というわけで、ポップの文章はただの取り違えによるものだったと判明した。だが原稿を書くという観点からするとさらに問題だったのは、『スモーク』にはプレゼントにまつわる話なんてこれっぽっちも出てこなかったという点だった。120分のあいだ、誰もプレゼントをあげないし、誰ももらわない。プレゼントにまつわる話が出てくるというのは、(いつものように)僕の完全な記憶違いだったのだ。

 だけど、取り違えによるポップがもとで久しぶりに見返して、『スモーク』の素晴らしさを再認識できたのは大きな収穫だった。あのポップがなければこの作品を見返すこともそうそうなかっただろう。言ってみれば、僕はレンタル店から思わぬプレゼントをもらったのだ。
 ...というまとめはやっぱり強引ですかね。

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『スモーク』
監督:ウェイン・ワン
出演:ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハート他
製作国:アメリカ/日本
製作年:1995年
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