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vol.111 『座頭市』 by 桜井徹二


8月のテーマ:祭り

映画館で映画を見ていると、上映後、客席から拍手が起こることがある。皆さんはそういう場面に遭遇したことがありますか? 僕は3回あります。1回目は『メリーに首ったけ』、2回目は『少林サッカー』、そして3回目は北野武監督の『座頭市』だった。

『メリーに首ったけ』と『少林サッカー』はどちらも徹頭徹尾、笑いを追求したコメディ作品で、しかもエンディングにNGシーン集があるという共通点がある。作品の笑いのセンスが観客のつぼにはまれば、エンディング後に拍手が起きるのもよくわかる。

でも『座頭市』はコメディの要素もあるにはあるけれど、ほかの2作品に比べれば基本的にはわりとシリアスな映画だ。それにも関わらず観客から拍手が起きたのは、映画そのものの出来に加えて、最後の祭りのシーンに依るところが大きいと思う。

物語の終盤で"圧政"から解放された村人たちは、祭りを催し、心ゆくまで踊り、カタルシスを爆発させる。その祭りと踊りの熱狂を目の当たりにした僕たち観客もまた、ハッピー・エンドを祝し、拍手を送った。あの祭りのシーンがなければ、きっと拍手が起こることはなかったはずだ。

正直に言えば、僕は祭りというものにはそれほど興味を引かれない。小さな神社なんかのお祭りの非日常的な雰囲気は好きだし、屋台をひやかして歩くのも楽しい。でも大勢で夜通し踊り明かす祭りとか、すごい剣幕で何かを投げ合ったりかけ合ったりする祭りとか、そういうのにはあまり興味が持てない。どこか冷めた気分で傍観してしまう。

これは祭り自体の良し悪しとはまったく無関係で、ただ僕がそういう祭りと個人的なつながりが見出せないせいなのだと思う。大体の場合においてそうした祭りは、僕にとっては脈絡も存在理由もゆかりもない。だからニュースなどで祭りの様子を見ても、血が沸き立つこともなければ心動かされることもない。

でも『座頭市』の祭りのシーンでは、僕は特に考えることもなく、ほかの観客と一緒になって拍手を送っていた。村人とともに、(控えめながらも)カタルシスを爆発させていた。少なくともあの日のあの場所において、この映画はそれだけの強い磁力を発していたのだ。

試しに周囲の何人かに聞いてみたところ、誰もが劇場で拍手が起きた映画を1つか2つは挙げることができた。拍手が起きた映画というのは、それぞれの中である種の特別な位置を占める作品として記憶に刻まれているのだろう。つまりは、その場に居合わせた観客は、みんな気づかないうちに同じ記憶を共有していることになる。そういう特別な作品が誰の中にも1つ2つあるというのは、なかなか悪くないことだと思う。その1つが『少林サッカー』だという事実には、少し引っかかりを感じなくもないけれど。

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『座頭市』
監督:北野武
出演:ビートたけし、浅野忠信、大楠道代
製作国:日本
製作年:2003年
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