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vol.108 『ベスト・キッド』 by 藤田庸司


6月のテーマ:半分

子供の頃、100円玉を山積みにしてアーケードゲームをしたり、チロルチョコを箱買いする大人を見て、「早く大人になりたいな~」と思ったものだ。半人前ではなく一人前。
誰にも頼らず自分一人の力で何でもできる大人のパワーに憧れた。男児ということもあり、とりわけ"強いもの""力"に憧れていた少年時代、ヒーローはジャッキー・チェンだった。『クレイジーモンキー/笑拳』や『ドランク・モンキー/酔拳』は、それまで親に連れられて足を運ぶ"東映まんがまつり"こそが映画と思っていた僕が、洋画の世界へと足を踏み入れるきっかとなった作品だ。そんなジャッキー・チェン映画も、中学校に入る頃にはめっきり観なくなるのだが、最近ウィル・スミスの息子、ジェイデン・スミスが主演の『ベスト・キッド』に遭遇した。

ラルフ・マッチオ主演の『ベスト・キッド』のリメイク版としても話題を呼んだ本作だが、ジェイデン・スミス演じるドレにカンフーを指南する役としてジャッキー・チェンが出演している。オリジナル版、リメイク版を問わず、泣き虫キッドがベスト・キッドへと成長していく様は何とも勇ましく爽快だが、リメイク版では円熟した演技を見せるジャッキー・チェンに驚くと同時に、まるで何十年も会っていなかった幼馴染に会ったような感慨深いものを感じた。子供の時分に観た『クレイジーモンキー/笑拳』や『ドランク・モンキー/酔拳』では、師匠に手厳しくしごかれるジャッキーが、本作では逆に師となって少年をしごき、一人前のカンフーマスターにすべく鍛え抜く。かつては腕っ節に物を言わせて演技をしていたジャッキーが、本作ではセリフも少なく、目線や表情で孤独な初老男性を演じ上げているではないか。

一人前に成長したジャッキー。"幼馴染"の成長を目の当たりにし感銘を受けた僕はといえば、あの頃から数十年、自他共に認めるオッサンになったものの精神的にはあまり変わっておらず、事あるごとに己の未熟さに反省を繰り返す半人前である。僕がジャッキーのように一人前になれる日は来るのだろうか?来ないかもしれない。でも努力は続けよう。ベスト・キッドは無理だが、ベスト・オッサンなら可能性はある。

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『ベスト・キッド』
監督:ハラルド・ズワルト
出演:ジェイデン・スミス、ジャッキー・チェン
製作国:アメリカ/中国
製作年:2010年
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