今週の1本

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vol.105 『B.I.K.E』 by 相原拓


5月のテーマ:自転車
今月のテーマは「自転車」だと知って焦った。キラリならまだしも今週の1本となると、書ける内容がかなり限られてしまう。自転車と聞いてぱっと思い浮かぶ映画などないし、そもそも5月との関連性が全く見いだせない。数日間悩んだ末、ようやく1本の映画を思い出した。MTCのディレクターになって初めて字幕収録に立ち会った作品、『B.I.K.E』だ。

内容については後ほど触れるとして、まずは収録について書きたい。MTCが受発注している案件には字幕原稿のみのやり取りで完結するものが多い。CS放送などの番組がいい例だ。ディレクターはクライアントから翻訳の依頼を受け、翻訳者さんに字幕の作成をお願いする。その後、納品されてきた原稿をチェック・修正したものをクライアントに納める。これが基本的な流れ。ただ案件によっては、字幕データだけではなく完パケが必要になることもある。例えば、映画祭からの依頼であれば、十数作品(現在、翻訳作業が進行中のショートショートフィルムフェスティバルに至っては数十作品)もの映画を一斉に翻訳プラス収録し、上映用のデジタルテープとして納品する。

では収録時にスタジオで何をするのか。すでにチェックを重ねていてクライアントのOKも出ている原稿であれば、単にデータをテープに流し込むだけでいいのでは?と思われるかもしれないが、実際は収録時のチェックこそが本当の意味での最終チェックになるので、非常に重要なステップなのだ。

これまでの経験から言うと、スタジオで全く修正がいらなかったということはほとんどない。まずチェックするポイントとしては、言うまでもないが、字幕の内容。翻訳者さんもディレクターも日々完璧な原稿を目指して仕事するわけだが、ヒューマンエラーによる誤字・脱字などのミスを100%なくすのは難しい。だからこそ収録前のチェックに全力を尽くす必要があり、収録時のチェックは、こういったミスを可能な限りゼロに近づけるための最終手段となる。

内容以外のところではフォーマット的な修正も発生することがある。字幕の位置やフォントのサイズ、テロップを出すタイミングなど。この辺りはクライアントの細かい要望もあるので、ディレクターが勝手に判断できないことが多い。収録してしまってからでは遅いので、その場で意見を聞けるよう収録する際は、基本的にクライアントに立ち会っていただくようにしている。

ちなみに『B.I.K.E』の時は、スタジオでの修正はほとんどなかった。当時、僕はまだ見学する身で何も分かっていなかったが、今思えば、あのように滞りない収録を可能にしたのは事前の徹底的なチェック、そして元の翻訳原稿の質だったのだろう。お陰で僕は仕事を忘れ(同席していた2人の先輩がしっかりとチェックしていたので・・・)一視聴者として普通に作品を楽しんでしまった。

やや強引だが最後に軽く作品紹介を。本作はBlack Label Bike Club (BLBC)と名乗るアメリカの自然保護団体を追ったアンダーグラウンド・ドキュメンタリー。自然保護団体というと響きはいいが、BLBCは一見するとギャングも同然。ただ彼らには彼らなりの理念・ビジョンなるものがあり、「エコ」という言葉が連想させるような生ぬるい活動ではなく、大量消費・物質主義が蔓延する現代社会をぶち壊すことを存在意義とするようなアウトロー集団なのだ。ほとんどのシーンが暴力やドラッグに溢れている本作は決して万人向けではないが、見る者は、現代社会の在り方について改めて考えさせられるはず。公式サイトにてDVDが販売されているので、興味のある方には是非ご覧いただきたい。

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『B.I.K.E』
監督:ジェイコブ・セプティマス & アンソニー・ハワード
製作国:アメリカ
製作年:2005年
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