今週の1本

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vol.101 『エイプリルの七面鳥』 by 藤田奈緒


3月のテーマ:パーティー

今は異国に引っ越してしまったので、会う機会がぐっと減ってしまったけれど、とてももてなし上手の友達がいる。学生時代にはオムレツを作るのがやっとだったのに、大学を卒業して結婚して、あれよあれよという間に料理の腕を上げていった。彼女の家に招かれて行くと、いつもテーブルには溢れんばかりのお皿が並び、それを目にするだけで思わず笑みがこぼれたものだった。テーブルを囲む人数の大小にかかわらず、彼女の手料理は毎回がまるでパーティーのような高揚感を与えてくれた。

料理をする(=ものを食べる)という行為は、もちろん私たちが生きるために必須なことだけれど、それよりも何よりも、大げさに言うならば"生きる喜び"を感じさせてくれる行為だと思う。理由は1つ、料理には作った人の食べる人に対する思いがこめられているから。その思いを受け取りながら口に運ぶ料理の味は間違いなく格別だ。

おぼつかない手つきで包丁を握り、つるつる滑る七面鳥を落っことしながら、手当たり次第に野菜を詰め込むエイプリル。彼女が人生で初めての料理に挑戦しているのには理由があった。折り合いが悪く疎遠になっていた母親がガンで余命わずかと知り、思い切って家族全員を感謝祭のディナーに招くことにしたのだ。

久しぶりに会う家族を思い浮かべながら、ネームカードを用意し、家中を飾りつけ、あとは七面鳥をオーブンに入れるだけ、というところでオーブンの故障が発覚。みんなが到着するまであと数時間。エイプリルはオーブンを貸してくれる人を探し、アパート中を駆けずり回ることになる。果たして母の好物の七面鳥のローストは無事焼きあがるのか...?

数時間後、一時は絶望感から涙を流したエイプリルは満面の笑みをたたえていた。オーブンを貸してくれた中国人一家に、ボーイフレンド、そしてやっと再会できた最愛の家族に囲まれて。テーブルの上にはこんがり焼きあがった七面鳥とたくさんの料理、笑顔でない人など1人もいない。部屋中が幸せな笑いに満ち溢れている。

たとえ詰め物がインスタントでも、ローワー・イーストサイドのぼろアパートの階段を何度も上り下りした七面鳥でも、エイプリルの感謝祭のパーティーは大成功だ。それはその場にいるみんなの顔を見れば分かる。テーブルに並ぶ料理には文字どおり、エイプリルの渾身の思いがこもっている。

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『エイプリルの七面鳥』
監督:ピーター・ヘッジズ
出演:ケイティ・ホームズ、パトリシア・クラークソン他
製作国:アメリカ
製作年:2003年
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