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2012年1月 アーカイブ

vol.126 「リセットできる翻訳者」 by 藤田庸司


1月のテーマ:リセット

皆様、新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い申し上げます。

2012年が始まった。例年、年が明ける瞬間はテレビの前で、アナウンサーや番組司会者が行うカウントダウンで気分を盛り上げつつ迎えることが多い。12月31日の23時59分59秒から、元旦の0時0分0秒に変わった瞬間というものは過去や自分の気持ちがリセットされるような爽快感が味わえ、何度迎えても気持ちがいいものだ。
2011年を振り返ると、個人的には映像翻訳ディレクターとして実に様々な案件を担当した充実した年だったと言える。かいつまんで挙げてみると、

・スポーツ素材(選手やチームを題材にしたドキュメンタリー、試合レビュー、現地レポートなど)
・音楽素材(ロック、ポップス、ジャズ、R&Bなど)
・エンタメ(海外ドラマ、アワードもの、EPKなど)
・企業VP(IT系、医療系など)
・映画祭(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)
・広告(テレビCM、CM制作企画書)
・書籍・脚本
・ブログ
・オンサイト翻訳(派遣翻訳)
・その他(英語・日本語スクリプト聞き起こし、通訳派遣)

案件のバラエティたるや年々確実に広がっている。また案件だけでなく字幕入り映像が流れる媒体も10年前では考えられないほどバラエティ豊かで、それら媒体で流すことを前提として制作されるコンテンツも少なくない。そうなってくると、映像翻訳者も進化し続けるメディアや、そこで流すための素材に柔軟に対応していかなければならない。

スクールに通い、映像翻訳を学ばれている方のなかには劇場公開映画に字幕をつけたい、大好きな海外ドラマに字幕をつけたいと考えられる方もいると思う。ただ、それだけに固執すると自分の才能を生かす場を狭めてしまう可能性がある。それはそれで一つの目標として素晴らしいが、"字幕=お茶の間のテレビ、映画館のスクリーンで流れるもの"と考えていては業界の流れ、時代の波に乗り遅れること必至だ。そして大切なのが乗り方である。スクールでは徹底的に基礎を習うが、どんな業界にも共通することで、プロの現場では基礎を踏まえつつ、その都度シチュエーションに合わせて臨機応変に対応しなければならない。

例えば企業VPのストリーミング映像では、文字数設定を一般的な1秒4文字、16文字×2行ではなく、1秒7文字、22文字×2行に設定したりする。読むのは少々忙しいが、何度も繰り返し視聴できることを考慮したうえで、より多くの情報を提供したいという意向だ。また、携帯電話やスマートフォンで視聴することを目的とした映画の予告編や俳優インタビューなどでは、提供する情報量よりも読みやすさや視聴者の理解度を重視し、最重要情報、大意のみで訳文を構成したりする。他にも目立つところでは電車内のモニターで流すための番組、イベント会場の大スクリーンで流すコンテンツなどがあるが、いずれにせよ1秒4文字、16文字×2行が基本とは言い難くなってきている。世の中の流れを考えると、そうした傾向は益々強くなっていくだろう。

とはいえ基本からの逸脱には勇気がいる。初めて担当するタイプの素材であれば、その素材のテーマや構成を分析し、お手本や参考となるものを探してみるといい。カメレオンのように素材に溶け込んで、納品し終えたらリセット、また次なる素材の色を模索する。毎回素材ごとに頭の中をリセットして求められているニーズを熟考し、作業アプローチを考えてみよう。視聴者の目線、ファンの気持ち、コンテンツ制作者の意図、彼らの伝えたいメッセージ、それらを的確に掴めば、いかなる素材でも大筋から外れることはないと思う。上手な翻訳者は自分のカラーを保ちつつそれができる。

去年の暮れに雑誌のインタビューを受けた。"映像翻訳ディレクターが考える、プロとして成功する映像翻訳者の資質は?"という質問に、"柔軟な発想・姿勢とガッツ"と答えた。今年の仕事におけるテーマにしようと思う。

vol.127 「必死になってますか?」 by 浅野一郎


1月のテーマ:リセット

日に日に気温も下がってきて、暑がりの私には本当にすごしやすい
日が続く。嬉しい限りだ。できれば、ずっと冬が続けばいいと思う
今日この頃だ。

さて、この3年間、私は正月を心待ちにしてきた。ただでさえ、
心躍る正月だが、ここ数年は「箱根駅伝」にて我が母校が破竹の
勢いで力を伸ばし、有力校を押しのけて大活躍しているからだ。

しかし、昨年の駅伝は主力選手の不調ということもあり、惜しくも
2位... 後輩たちが悔し涙に暮れているのを、テレビの前で私も一緒
になって泣いてしまった。
そこで後輩たちは駅伝が終わったその日から、「1秒を削りだせ」を
合言葉に猛練習を始めた。
トップの学校に21秒差で負けてしまい、10区に及ぶ各区間で、選手
一人一人があと3秒早く襷を渡していたら... という考えに基づき、
必死にトレーニングに励んだそうだ。
その甲斐あって、2012年の今年は、大会新記録という大きなお年玉
付きで、見事優勝を飾った。

そのときに思ったのは、いま当校で勉強をしている受講生、いま
トライアルに必死にチャレンジしている修了生、いま仕事を受けて
もらっている翻訳者のことだ。
よく、"どうやったら、映像翻訳者としてスキルが伸びるのか?
トライアルに受かるのか?"という質問をいただく。
そんなときは必ず、"とにかくたくさん映像素材を見ること"と答
えている。もちろん、これはこれで非常に有効なトレーニング方法
なのだが、もう一点、今年からは付け加えたいと思う。

「必死になってください」

受講生、修了生、翻訳者、どんな立場の人にも当てはまることだと
思うが、"もっと知りたい!"という気持ち、必死に物事を理解し
ようという気持ちを持ってもらいたいのだ。
映像翻訳は生半可な知識や覚悟でできるものではない。

映像翻訳者は、海外の素材はローカライズ(あるいはグローバライズ)
し、不特定多数の視聴者に、素材の内容を伝えることが使命だ。
その素材を見た人は知識を得て、さらに複数の人に口伝などの手段を
持って、自分の知識を共有していく。いわば映像翻訳者は文化の担い
手だ。

だから、"これはどういうこと?"などと聞かれたときに、"ちょっ
と、そのあたりは調べが付かなくて..."や、"聞かれると思ったんで
すよね..."という答えを返さざるをえないような、いい加減な仕事は
やめよう。必死に、その素材のことを調べ愛情を注ぎ、専門家になっ
てもらいたい。
そんな必死の想いを素材は絶対に受け入れてくれる。必死になって原
文を読み、必死になって調べ物をしてほしい。自ずと答えが返ってく
るから。