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vol.99 『魔女の宅急便』 by 杉田洋子


1月のテーマ:一番

恐らく、私が人生で1番繰り返し鑑賞し、さらに1番大きな影響を受けた作品がこれだ。
20回は観たので、あまり昔のような気がしないのだが、公開年は1989年。
もう20年以上も前の作品ということになる。

その頃の私は空想好きで、外国の風景や未知との出会いを感じさせる物語に惹かれた。
キキのような少女が、1人で見知らぬ街へ行き、さまざまな人と出会い、お仕事まで始めてしまうという一連の流れは、留学を夢見るきっかけになったと言っても過言ではない。
また、薄汚れた部屋を掃除して、限りあるお金でフライパンを買い、少しずつ生活を整えてゆく様などは、1人暮らしへの憧れを駆り立てた。

映画の余波は、当時の実生活にも及んでいた。
"ディンドン(Ding-Dong)て何?"と思いながら「ルージュの伝言」を口ずさんでみたり、黒猫を見ればジジと呼びかけてみたり...。
リコーダーのレ#の指使いを覚えたのは、挿入曲の"風の丘"だったし、初めて挑戦した1000ピースのジグソーパズルは、パン屋で店番をするキキの図だった。

今では恐ろしいほど記憶力が低下して、観るもの読むもの、片っ端から忘れてしまうのだが、この作品には今も私のポリシーとして息づいているセリフがたくさんある。
(20回も観れば当たり前か...)

今日は個人的心に残るセリフ ベスト3を振り返ってみたい。

第3位
「私、このパイ嫌いなのよね」

優しい老婦人が孫娘に贈ろうと、キキに託した"ニシンとカボチャの包み焼き"。
それを受け取った何やらバブリーな孫娘は、ずぶ濡れのキキに冷たくそう言い放つ。
私は、"おばあちゃんがせっかく作ってくれたのにこんな言い方するなんて!!"
と激しい憤りを覚えつつも、"ニシンて昆布巻きに入ってる魚じゃん!魚と甘いカボチャのパイなんて、確かにちょっと...(そもそもパイはデザートだと思ってる節があった)"などと思い、自己嫌悪に陥った。
こんな風にはなるまいと思った反面教師的な一言。
ちなみに、今ではぜひとも食べてみたい一品である。


第2位
「黒は女を美しく見せるんだから」
パーティーに誘われたものの、何の変哲もない黒いワンピースを気にするキキに、おソノがかける一言。私は、"本当? 本当にきれいに見えるの?"と何度も母に確認した。
おかげで、今も私のワードローブは真っ黒である。
なお、当時は無力な小学生だったので、青のジャージを黒に変えるというマイナーチェンジに終わった。


第1位
「描くのをやめる」
突然飛べなくなって落ち込むキキが、画描きのウルスラに相談する一幕。公私問わずスランプに陥った時、私はいつもこのウルスラの言葉を思い出している。

キキ
「私、前は何も考えなくても飛べたの。
でも今は分からなくなっちゃった」

ウルスラ
「そういう時はジタバタするしかないよ。
描いて、描いて、描きまくる」

キキ
「でも、やっぱり飛べなかったら?」

ウルスラ
「描くのをやめる。
散歩したり、景色を見たり、昼寝したり...何もしない。
そのうちに急に描きたくなるんだよ」

キキ
「なるかしら」

ウルスラ
「なるさ」

......

どう頑張ってもうまくいかない時は、誰にでも、何にでもある。
そんな時、"気張らなくっていいんだ。ここが私の生きる道なら、必ずまた戻ってくる。私はここに戻るために、一瞬無になるんだ"
そう思うと何だか心がスーっとする。

ネガティブな停止ではない。投げ出すわけでもない。続けるための一時停止。ジタバタしたあと、潔く割り切るウルスラの姿勢は、子供心にとてもカッコよく思えた。
もちろん現実社会では、本当に何もしないのは難しい。でも、"思う"だけでいいのだ。そう思うことで、不思議と大丈夫な気がしてくる。
この言葉を残してくれた、キキとウルスラへの感謝は尽きない。

東京に来て11年が経とうとしてる今、キキと同じこのセリフで締めくくりたい。

「落ちこむこともあるけれど、私、この街が好きです!」

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『魔女の宅急便』
監督:宮崎駿
製作年:1989年
製作国:日本
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