今週の1本

« 2012年11月 | 今週の1本 トップへ | 2013年1月 »

2012年12月 アーカイブ

vol.145 『バッドサンタ』 by 小笠原ヒトシ


12月のテーマ:サンタクロース

子ども時代に抱いていたサンタクロースに対する幻想は、大人になるにつれ整理されていく。「どうしてサンタさんは欲しいものが分かるのだろう?」という疑問は、「プレゼントはお父さんが買ってくるらしい」という情報に変わり、「冬のボーナスが少なかったようだからクリスマスプレゼントは期待できない」という事実に直面する。

アメリカでは毎年クリスマスシーズンになると、ほとんどのショッピングモールでサンタクロースとの撮影会が行われる。それはモール中心部の広い空間に暖炉や大きなクリスマスツリーなど家庭のリビングをイメージしたセットを作り、ソファに座ったサンタクロースが膝の上に子どもたちを乗せて願い事を聞き、記念撮影をするというものだ。白いヒゲを生やしたかっぷくの良いサンタのおじさんは「HO HO HO」と笑い声をあげながら、笑顔を絶やさず子どもたちに接する。その姿はアメリカンの一般ピープルにとって、まさに幸福の象徴なのだ。たとえそれが商業目的の笑顔であったとしても。

そんな絶対的"善い人"の世界代表であるサンタクロースが、実は酒好き女好きの前科者で、デパートの金庫破りだという設定の映画が今週の1本、『バッドサンタ』だ。このシチュエーションだけで、もう十分面白い。

ビリー・ボブ・ソーントン演じるウィリーは相棒のマーカスと組み、クリスマス商戦中のショッピングモールで"サンタクロース"として働きながら、セール最終日の大金をターゲットにした金庫破りを企てている。しかも、ウィリー扮するバッドサンタは、仕事中にお漏らしをするわ、酒臭い息を子どもに吹き掛け暴言を吐くわで、善い人を演じるつもりなど毛頭ない。そこに現れたのがウィリーを本物のサンタクロースと信じ込む、デブでいじめられっ子のキッド。純真なキッドは、子ども嫌いのウィリーにストーカーのようにまとわりつく。困り果てたウィリーだが、ひょんなことからキッドの大豪邸に居候をすることになると、次第に心の変化が...。

主人公のダメ人間っぷりが強烈で、冒頭からこれでもかというほど最低な行動のオンパレード。それにより、後半戦でのウィリーの葛藤や心の変化がより際立ち、単におもしろエピソードをつなぎ合わせただけのおバカコメディではなく、ドラマとして充分に楽しめる。脇役たちのキャラも秀逸。口八丁の相棒ミゼット、強面で悪賢いセキュリティガード、今どきありえないほどピュアな少年、そしてサンタ萌えのセクシーウエイトレス。悪い奴が実はちょっといい人で、善人がとんでもない裏の顔を持っているなんていう展開が普通に楽しい。

お気に入りは「サンタクロース講習会」のシーン。モールでサンタクロースとして働くおじさんたちが、より良い接客を目指してレクチャーを受けるのだ。黒板に書かれた「SANTA'S 10 COMMANDMENTS(サンタクロース十戒)」が笑える!

「えっ、サンタさんが、そんな・・・」とうろたえるようなあなたは、観ない方がよい。無理をして観る映画ではないのだ。また本国アメリカではR指定、つまり17歳以下の観賞は保護者の同伴が必要な映画なので、クリスマスがテーマの映画だからといって小さい子どもと一緒に観るのはNG。エライことになる。

「サンタだってつらいよな・・・」と共感する余裕のあるオトナなあなたにこそ、ぜひ観てほしい。自分の中のどこかに潜んでいる"バッドサンタ"に気付くことだろう。

─────────────────────────────────
『バッドサンタ』
監督:テリー・ツワイゴフ
出演者:ビリー・ボブ・ソーントン
製作国:アメリカ
公開:2003年
─────────────────────────────────