今週の1本

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2013年4月 アーカイブ

vol.152 『世界にひとつのプレイブック』 by 丸山雄一郎


4月のテーマ:涙

恥ずかしいほど号泣したドラマがある。日本でも大ヒットした米のドラマ『ER緊急救命室』だ。1stか2ndシーズンの中のエピソードで、ストーリーはうろ覚えだが、不治の病に侵された子どもとその母親、そしてその子の担当となる小児科医・ダグ(ジョージ・クルーニー)との話だった。
一人の子どもがERに運ばれてくる。シングルマザーであるその子の母親にダグは手術を勧めるが、母親は手術を拒否する。子どもを死なせることになると憤るダグに、母親は自分も病で長く生きられないこと告げ、「いま手術をして子どもが助かったとしても、この子はこの先ずっと治療を受けていかなければならない。自分が死んでしまったら、結局、この子は治療を続けることができず、死んでしまう。ならば、私が看取ってあげられるうちに天国に行かせたい」と手術を断った理由を話す。
当時付き合っていた彼女の部屋で見たのだが、ヒクッヒクッとするほど泣いてしまった。結婚前で、もちろん子どもはいなかった時代なので、いまもう一度見たら、もっと泣くのは間違いないので見返していない。思えば当時から、子どもものにはなぜか涙腺が弱かった。『ドラえもん』の映画版や、TV番組の『はじめてのおつかい』、病気の子どものドキュメンタリーなんかは確実に泣く。番組の予告だけで泣いていることもある。ちなみに、映画やドラマは人に泣いているところを見られないからいいのだが、本は困る。僕は通勤時間に必ず本を読んでいるのだが、思いがけず子どももの感動シーンが出てくると、思わず涙が出てきてしまう。40歳半ばのオッサンが電車の中で本を読みながら泣いているのは、周りから見たら、そうとうヤバい。なので、会社の行きかえりに読む本の内容には気を付けている。
そんな涙もろい僕がちょっと前に映画館で見たのが、『世界にひとつのプレイブック』。主演のジェニファー・ローレンスが今年のアカデミー主演女優賞に輝いたので、見た人も多いと思うし、まだ公式のHPもあるので、あらすじに興味のある方はこちらでどうぞ。
周りから"絶対、泣ける!"と勧められていたので、かなり期待して劇場に足を運んだのだが、まず驚くのが観客のほとんどの観客が女性かカップル。ちなみにたまたまかと思って映画館の売店の子に普段の客層を聞いてみたら(仕事柄とにかく気になったことは聞く!)、9割近くは女性で残りはカップルの男だそうだ。
映画の出来については「面白い!」と太鼓判を押せる。ジェニファー・ローレンスは本当に素晴らしい演技だったし、父親役のロバート・デ・ニーロも良かった。でも一番の見どころはラストシーンだろう。というか、このラストシーンで、観客のほとんどが泣くから見どころと言っていいだろう。実際にこのシーンの瞬間、劇場中の女性たちからすすり泣きが聞こえてきた。「ズズ~」(鼻をすする音)「カサカサ」(ティッシュを出す音)がこだまするのだ。う~ん、すごい。ストーリーなのか、もう一人の主演のブラッドリー・クーパーがカッコよすぎるからなのかは分からないが、とにかく"泣きのパワー"は凄まじい。残念ながら僕は泣けませんでしたが...。

オッサンが涙する子どももの。女性たちが涙する恋模様。とにかくどちらもお勧めです!


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『世界にひとつのプレイブック』
監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、
ロバート・デ・ニーロ、クリス・タッカー
制作国:アメリカ
制作年:2012年
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vol.153 『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』 by 藤田奈緒


4月のテーマ:涙

韓流ブームが始まった頃、韓国の俳優が泣くシーンでは必ず片方の目からしか涙を流さない、というのが話題になった。彼らは大抵の場合、左目からつーっと静かに涙を流す。多くを語らずじっと悲しみに耐える姿はとても健気だし美しいのだが、あれを見るとどうしてもマライア・キャリーを思い出してしまう。マライアがどんな時でも右顔のショットしか許さないのは有名な話だ。実際、今FOXチャンネルで放送中の「アメリカン・アイドル シーズン12」で、マライアはいつも審査員席の左端、つまり画面に向かって一番右端に座っている。前シーズンまでは審査員の席は毎回入れ替わっていたはずなのに、今シーズン、彼らの席順は固定されているのだ。恐らくマライアの右顔しか映してはならぬという取り決めのせいだろう。話が逸れてしまったが、なぜだか韓流ドラマのあの涙を見ると、マライアの右顔ルールのようなナルシスト的要素をうっすらと感じてしまうのだ。確かに美しい、でも何となく心に響かない。悲しみが伝わる伝わらない云々の前に、人目を意識してしまっているのが透けて見える感じとでも言おうか。

それと対照的なのが、ボリウッドmeetsチャウ・シンチーとでも言うべきマサラ・カンフー映画『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』の主人公シドゥだ。デリーの市場、チャンドニー・チョークで働くシドゥは、何をやっても中途半端、自分の人生は失敗続きと悲壮感なく嘆き、さえない人生から抜け出す方法をいつも考えているお調子者。偶然出会った中国人に「中国の英雄の生まれ変わりだ」と言われてすっかり信じ込み、騙されていることも知らずに喜び勇んで中国へ飛び立ってしまう。

このシドゥ、素直で憎めない性格なのはいいのだが、とにかくよく泣く。中国に行くのを決めたのはほかでもない自分なのに、お世話になった親方と離れ離れになることを考えると、悲しくなってしまい大号泣。涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら親方に気持ちを伝える姿はお世辞にも美しいとは言えない。韓流スターのように気持ちを押し殺すことなく、全力で泣く。ちょっと大げさすぎて胡散臭く見えるほどだ。

さて、無事中国の村にたどり着いたシドゥを待ち受けていたのは、残忍なギャング、北条一味だった。人を疑うことを知らないシドゥは、知らぬ間にギャングを相手に戦いを繰り広げる羽目に陥っていたのだ。少々展開は突飛なのだが、ここで北条はシドゥの親方を人質として連れてくる。インドに残してきたはずの愛する親方が囚われの身になっているのを見て、人目もはばからず命乞いをするシドゥの姿に、村人たちは思わずもらい泣きをする。相変わらずの大げさっぷりだが、なりふり構わない感情むき出しの涙が見る者の心を打ったのだ。私もその例外ではない。その昔、まだ純真無垢な10代の頃に『タイタニック』を観た時に負けないぐらい、肩を震わせて泣いてしまった。どんなに泣き顔が醜くたって関係ない。込められた感情がにじみ出る涙は、それだけで人の心を揺さぶるということだろう。

ところで、このマサラ・カンフー映画にも、片方の目から流れる涙は登場する。シドゥと恋に落ちるヒロイン、サキを演じる超絶美人ディーピカー・パードゥコーンも上述のシーンで村人たちと同じようにもらい泣きをするのだ。韓流スター同様、左目からつーっと。これが尋常でなく美しい。韓流作品の涙には食傷気味の私だが、ディーピカーの左目涙にはつい心を奪われてしまった。

ちなみに、ディーピカー主演の究極のエンターテインメント映画『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』は渋谷アップリンクで4/27(土)~5/10(金) 連日上映。その後、日本各地で上映されます。明日からは人気インド映画4本を続けて公開する特集企画「ボリウッド4」もスタート。日本インド化、確実に進んでます。騙されたと思って、皆さんGWはぜひ劇場へ!

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『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』
監督:ニキル・アドヴァーニー
出演:アクシャイ・クマール、ディーピカー・パードゥコーン他
制作国:インド/アメリカ
制作年:2009年
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