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vol.153 『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』 by 藤田奈緒


4月のテーマ:涙

韓流ブームが始まった頃、韓国の俳優が泣くシーンでは必ず片方の目からしか涙を流さない、というのが話題になった。彼らは大抵の場合、左目からつーっと静かに涙を流す。多くを語らずじっと悲しみに耐える姿はとても健気だし美しいのだが、あれを見るとどうしてもマライア・キャリーを思い出してしまう。マライアがどんな時でも右顔のショットしか許さないのは有名な話だ。実際、今FOXチャンネルで放送中の「アメリカン・アイドル シーズン12」で、マライアはいつも審査員席の左端、つまり画面に向かって一番右端に座っている。前シーズンまでは審査員の席は毎回入れ替わっていたはずなのに、今シーズン、彼らの席順は固定されているのだ。恐らくマライアの右顔しか映してはならぬという取り決めのせいだろう。話が逸れてしまったが、なぜだか韓流ドラマのあの涙を見ると、マライアの右顔ルールのようなナルシスト的要素をうっすらと感じてしまうのだ。確かに美しい、でも何となく心に響かない。悲しみが伝わる伝わらない云々の前に、人目を意識してしまっているのが透けて見える感じとでも言おうか。

それと対照的なのが、ボリウッドmeetsチャウ・シンチーとでも言うべきマサラ・カンフー映画『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』の主人公シドゥだ。デリーの市場、チャンドニー・チョークで働くシドゥは、何をやっても中途半端、自分の人生は失敗続きと悲壮感なく嘆き、さえない人生から抜け出す方法をいつも考えているお調子者。偶然出会った中国人に「中国の英雄の生まれ変わりだ」と言われてすっかり信じ込み、騙されていることも知らずに喜び勇んで中国へ飛び立ってしまう。

このシドゥ、素直で憎めない性格なのはいいのだが、とにかくよく泣く。中国に行くのを決めたのはほかでもない自分なのに、お世話になった親方と離れ離れになることを考えると、悲しくなってしまい大号泣。涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら親方に気持ちを伝える姿はお世辞にも美しいとは言えない。韓流スターのように気持ちを押し殺すことなく、全力で泣く。ちょっと大げさすぎて胡散臭く見えるほどだ。

さて、無事中国の村にたどり着いたシドゥを待ち受けていたのは、残忍なギャング、北条一味だった。人を疑うことを知らないシドゥは、知らぬ間にギャングを相手に戦いを繰り広げる羽目に陥っていたのだ。少々展開は突飛なのだが、ここで北条はシドゥの親方を人質として連れてくる。インドに残してきたはずの愛する親方が囚われの身になっているのを見て、人目もはばからず命乞いをするシドゥの姿に、村人たちは思わずもらい泣きをする。相変わらずの大げさっぷりだが、なりふり構わない感情むき出しの涙が見る者の心を打ったのだ。私もその例外ではない。その昔、まだ純真無垢な10代の頃に『タイタニック』を観た時に負けないぐらい、肩を震わせて泣いてしまった。どんなに泣き顔が醜くたって関係ない。込められた感情がにじみ出る涙は、それだけで人の心を揺さぶるということだろう。

ところで、このマサラ・カンフー映画にも、片方の目から流れる涙は登場する。シドゥと恋に落ちるヒロイン、サキを演じる超絶美人ディーピカー・パードゥコーンも上述のシーンで村人たちと同じようにもらい泣きをするのだ。韓流スター同様、左目からつーっと。これが尋常でなく美しい。韓流作品の涙には食傷気味の私だが、ディーピカーの左目涙にはつい心を奪われてしまった。

ちなみに、ディーピカー主演の究極のエンターテインメント映画『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』は渋谷アップリンクで4/27(土)~5/10(金) 連日上映。その後、日本各地で上映されます。明日からは人気インド映画4本を続けて公開する特集企画「ボリウッド4」もスタート。日本インド化、確実に進んでます。騙されたと思って、皆さんGWはぜひ劇場へ!

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『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』
監督:ニキル・アドヴァーニー
出演:アクシャイ・クマール、ディーピカー・パードゥコーン他
制作国:インド/アメリカ
制作年:2009年
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