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vol.147 『食神』 by 杉田洋子


1月のテーマ:初〇〇

昨年の2月、初めてアジア圏の海外旅行に出かけた。行先は香港。
もともと香港に詳しかったわけでもないので、ガイド本を読み漁り、お決まりの夜景スポットや飲茶の常識などをチェックして、旅に備えた。
いよいよ出発も目前に迫った頃、さらにテンションを上げるべく、香港映画を借りて観ることに...。いくつかの候補の中から選び抜かれたその映画こそ、『食神』である。
きっと多くの、特に女性は共感してくださると思うが、私にとって旅の楽しみの半分(以上)は「食」が占めている。まして食の宝庫であるアジアへの旅となれば、そのシェア率はいっそうアップ。タイトルに「食」を冠したこの映画こそ、ふさわしい1本に違いないと確信した。

実はこの映画、『小林サッカー』や『カンフーハッスル』でも知られる、シャウ・シンチー監督による作品。彼は本作でも、監督・脚本・主演を兼任している。

シャウ・シンチーが演じるのは、"食神"として名を馳せるカリスマ的な料理人、周。チェーン店も続々オープンさせて絶好調の周だったが、ある時、商売敵の策略にはまり食神の座を奪われてしまう。落ちぶれて夜の路地裏を文無しでうろついていた周は、屋台を経営する女性、通称アネゴのどんぶり飯に救われる。
この出会いをきっかけに、周は食神へと返り咲くため、路地裏の仲間を巻き込んで新商品を売り出すことに。その名もなんと"爆発!小便団子"。アネゴの猛スピードのミンチ技により生み出された、弾力のある絶品団子である。この団子でヒットをとばし勢いづいた周は、現食神を打倒すべく、さらなる修行の旅に出る。果たして周は食神の座を取り戻せるのか...!?

残念ながら、こんな数行の差しさわりのないあらすじでは、この映画の真の面白さがまるで伝えられない。もっとディテールをバラしてしまいたいのだが、これ以上明かすのは醍醐味を奪ってしまうようであまりにも気が引ける。とにかく、コメディーあり、アクションあり、ほんのりラブストーリーありの、まさに香港屋台の雑多麺のような、豪快なチャンポン映画なのだ。
食神時代の周の、露骨すぎる性格の悪さ。アクロバティックで華麗な料理シーン。そして、ファールさながらのまさかの展開には抱腹絶倒...。
シュールな笑いを求める方には、心の底からお勧めします。

ちなみに、つい先日、自宅の近くの台湾料理屋さんで、小便団子に近いと思われる団子に出会った。映画の中の小便団子は、シャコとひき肉を使っていて、中からスープがピュっと飛び出す。何とも食欲の失せる名前だが、そのうまさは、拒食症患者をもたちまち癒やしてしまうほどなのだ。
そんな小便団子(に似ていると思われるもの)は、店で頼んだ台湾式の火鍋に潜んでいた。プリプリの魚肉系団子を一口噛んでみると、何かの魚卵が混じったスープがピュッと溢れ出る。

"これは...!!!

う、美味い!!!!(後ろでビッグバン)"

...まあ、実際のところ別物ですが、小便団子ってこんな感じなのかなあと、半ば懐かしい気持ちでいただいたのでありました。
※お店の情報を知りたい方はわたくしまでメールをください。

細かいことは考えず、腹の底から笑いたい方は、旧正月のお供にどうぞ。

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『食神』
監督:チャウ・シンチー
出演:チャウ・シンチー、カレン・モク、ウ・マンタ 他
製作国:香港
製作年:1996年
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