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vol.141 『ロッキー』 by 齋藤恵美子


10月のテーマ:郷愁

かつて、私はなぜかある映画に惹きつけられ、同じ映画を観るために4回も映画館に足を運んだことがある。言うのもちょっと恥ずかしいが、その映画は「ロッキー」。だいぶ前の映画なのでご覧になったことのない方も多いかと思うが、正にスポーツ根性とアメリカンドリームの映画だ。

中学入学の時点ですでに168センチあった私は、その身長のせいで学校の中でも目立っていた。ほどなくバレーボール部の監督や先輩の目に留まり、テニス部に入るはずがバレー部に入部。3年間、バレー漬けの中学生活を送ることになる。

当時のバレー部は「ヒットラー」と呼ばれる監督から、厳しい指導を受け、本気で全国大会に出ることを目指していた。吹雪の中を短パンで、顔や太ももが赤くはれるまで走りこんだり、1時間ぶっ続けでスパイクを打たされたり、本当にヘロヘロになるまで練習をした。そして、中3になるころには、私たちは負けを知らない、秋田県1のチームになっていた。最後の試合の前までは...。

中学最後の試合、全国大会出場をかけた県予選・決勝。秋田県最強だったはずの我がバレー部は、これまで負けたことのない相手にまさかの敗北。私たちの夢はあっけなく破れてしまった。あの時の、胸にぽっかりと穴があいたような気持ちは、今も忘れられない。しばらくは何も手がつかなかった。それでも私は高校でもバレーを続け、それなりにバレー人生をまっとうした。卒業後は進学のために上京。バレーとの付き合いも東京では遊び程度になっていった。

そんな中で見たのが「ロッキー」だ。無名のボクサー・ロッキーと史上最強の世界チャンピオンが対戦。そして、ロッキーは、最終15ラウンドまでリングの上に立ち、自分がただのゴロツキではないことを証明するのだった。きびしいトレーニングの場面で流れる、ビス・コンティによるテーマ音楽"Gonna Fly Now" は、今でも口ずさめるし、思い浮かべるだけで、気持ちが盛り上がってくる。しかし、主演のスタローンがそれほど好きだったわけではないし、ボクシングが好きなわけでもない。なぜあれほど映画ロッキーに惹かれ、夢中になったのか、最近まで自分の気持ちが良く分からなかった。

今、改めて考えてみると、努力してスポーツで勝負し、チャンピオンを目指すロッキーをとおして、私は自分が中学時代達成できなかった夢を懐かしく思い出していたのではないかという気がする。あるいは、勝利を目指して疑うことなく練習し、努力をしていた中学時代の自分とチームメートへの郷愁なのかも知れない。

いろいろ思い返しているうちに、なんだか、頑張ろうという気持ちがわいてきた。最近少々疲れ気味の私、そして皆さんも、ファイト!です。


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『ロッキー』
監督:ジョン・G・アヴィルドセン
出演者:シルヴェスター・スタローン、タリア・シャイア、バート・ヤング、
バージェス・メレディス、カール・ウェザース
製作国:アメリカ合衆国
公開:1977年
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