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vol.136 『グレート・ブルー』 by 藤田庸司


8月のテーマ:記録

益々の盛り上がりを見せるロンドンオリンピック。4年間、世界の頂点を目指し努力を積み重ねてきたアスリート達の超人的な技の数々や肉体美は、スポーツファンのみならず万人の心に感動を与えてくれる。選手たちのパフォーマンスに、世界中のお茶の間が一喜一憂していることだろう。日々塗り替えられる世界記録。記録は破られるためにあるかのように、人は記録の壁を越すことに心を奪われ、挑戦し、敗れ、また挑戦し、勝利し、また敗れる。昨日までの偉業は一瞬のうちに過去の遺物となり、昨日の英雄は今日の敗者へと成り下がる。実に厳しい世界だ。

一方でスポーツの世界には勝ち負けに左右されない感動も存在する。例えば弱者が負けると分かっていながらも、勝利に向かって必死に食らいつく姿や、人知れず行われる血のにじむような訓練の痕跡がそれに当たる。新記録樹立を社会や歴史といった外部に対する挑戦と考えるなら、それらは自身への挑戦であり、理想追求・自己完結へのプロセスと言えるだろう。そういった白黒判断のつかない一面に我々は心を動かされたりする。

今回取り上げた『グレイト・ブルー』には、そうした勝負の世界と理想追求・自己完結とのコントラストが美しく描かれている。命を懸けて世界最強、新記録樹立を目指すエンゾ(ジャン・レノ)、エンゾに無理やり勝負の世界に引き込まれるが、本来は記録などに興味はなく、それよりも海との一体化、自身が海の一部になることを望み続けるジャック(ジャン=マルク・バール)。正反対ではあるが純粋さにおいては同等の二人を、アンジェラ(ロザンナ・アークエット)の母性がやさしく包む。交差しながらクライマックスへと向かう三人の運命。シュールなラストシーンは何度見ても鳥肌が立つ。海の広さ、深さ、やさしさ、冷たさ、鑑賞していてまるで海に触れているような感覚に陥る。


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『グレート・ブルー』
監督:リュック・ベッソン
出演:ロザンナ・アークエット、ジャン=マルク・バール、ジャン・レノほか
製作国:フランス/イタリア
公開:1988年
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