今週の1本

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vol.134 『奇跡』 by 相原拓


7月のテーマ:変わらないもの

先日、シティライツ映画祭で是枝裕和監督の『奇跡』を観た。2本の新幹線がすれ違う瞬間に奇跡が起きる、そんな噂を信じて冒険に出る子供たちを描いた本作を観て思った。今も昔も変わらず子供というのは、一度はこの手の話に乗せられて失望を経験するのではないだろうかと。一時期、本気で錬金術を信じた僕も例外ではなかった。

あれは小学2年生の時にサマーキャンプで友達に聞いた話だった。

「ねえ、知ってる? この軽石を砕いて水に入れておくと金になるんだって!」
「そんなのウソに決まってるじゃん」
「そうかな... でも、なんかおもしろそうじゃん。やってみようぜ!」
「いい。ひとりでやれば...」

友達はしょんぼりして一人で石を砕き始めた。本人には言えなかったが、その夜、僕もやってみることにした。半信半疑だったが、本当だとしたら確かに面白い。いや、面白いどころじゃない。時間をかけて粉々にした軽石を紙コップに入れ、ゆっくりと水を注いだ。まるで錬金術師になったような気分でワクワク感が収まらない。その日から、一日に何度もコップの様子を確認せずにはいられなかった。初めてアサガオの種を植えた時のように。

しかし、いつまでたっても石が金に変わることはなかった。

はなから信じていなかったわけだし、実際の気持ちとしては失望というほどでもなかった。ただ、これは子供のナイーブさなのかもしれないが、奇跡を信じたいという気持はどこかにある。その分、半信半疑とはいえ、がっかりしたことには違いない。

『奇跡』では、7人の子供たちが、それぞれの願い事を心に新幹線がすれ違う場所へと向かう。絵が上手になりたいという子もいれば、死んだペットが生き返ってほしいという子もいる。新幹線がすれ違う瞬間、みんなが奇跡を信じて自分の願い事を大声で叫んだ... 

もちろん、奇跡など起きない。彼らも、僕と同じようにがっかりはするものの、「まあ、そんなもんだよね」と、すぐにあきらめがつく様子。そして、一人ひとりが、これを経験する前の自分よりも、ほんの少し大人になっている。そんな彼らを見ているうちに、あの時の気持ちが蘇ってきた。「まあ、そんなもんだよね」と思いながら、ほんの少し大人になった気がしたのだった。

そういえば、あのコップを捨てた覚えがない。今頃、どこかで金になっているかも......なんてことはないだろうが、奇跡を信じたいという気持は、今も変わらずどこかにある。

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『奇跡』
監督:是枝裕和
出演:前田航基、前田龍之介、オダギリジョー、大迫のぞみ他
製作国:日本
製作年:2011年
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