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vol.127 『ティファニーで朝食を』 by 藤田彩乃


3月のテーマ:コーヒー

コーヒーといえば思い出すシーンがある。

朝のニューヨーク五番街。ジバンシィーの黒いイブニングドレスに大きな黒のサングラスの女性がタクシーを降りて、ティファニーのショーウィンドウの前で、紙袋からコーヒーとデニッシュを取り出してかじる。そう、彼女のホリー・ゴライトリー。名作「ティファニーで朝食を」のあまりにも有名なオープニングシーンだ。まったく台詞のないシーンだが、1960年代のニューヨークの街並みと当時のファッションセンスにうっとりしてしまう。

オードリー・ヘップバーン演じるホリーは、「誰のものにもなりたくない」と自由気ままに、お金持ちの男性を渡り歩く。飼い猫に名前も付けず、ティファニーに憧れ、金のない男には見向きもしない彼女だが、隣に引っ越してきた駆け出しの作家ポールとの出会いをきっかけに、本物の愛に目覚めていく。

一番の見所はなんといってもオードリー・ヘップバーン。どのシーンを取ってもため息が出るほど美しい。コールガールなのになぜか品があり、可憐だけど凛としてて、とにかく絵になる。

奔放で破天荒な行動とは裏腹に、どこか不安で悲しげなホリー。辛い過去と心に傷を負う彼女は、傷つきたくないがあまり自分を守りすぎて、かえって自分を孤独にしていく。何が起こっても平気な顔をしてるが、実は純粋で傷つきやすい。そんな素直になれないホリーをうまく演じていたと思う。

オードリーの魅力を引き立てるのが、彼女が身にまとうファッション。そのセンスの良さを見ると、カジュアル志向の最近のアメリカンファッションがチープに見える。

本作の衣装担当はジバンシィーとイデス・ヘッド。ジバンシィーといえばオードリー・ヘップバーンを思い出すほど、切っても切れない関係の2人。長身で華奢な体にシンプルでモダンな衣装を合わせるオードリーのスタイルは、ジバンシーによって確立され、半世紀経った今も、世界中の女性の心を捉えてはなさない。イデス・ヘッドは、「ローマの休日」や「麗しのサブリナ」でも彼女の衣装を担当。イデスがデザインしたサブリナ・パンツやサブリナ・シューズは世界を席巻した。「シンプルこそ一番美しい」という哲学を持ち、グラマー全盛期のハリウッドに、新しい美のスタイルを持ち込んだのが彼女だ。

最後に忘れてはならないのが主題歌「ムーン・リバー」。アカデミー賞にも輝いた名曲だ。前述のオープニングシーンは、実はホリーの孤独感や不安を象徴するシーンなのだが、この哀愁に満ちたメロディが、その切なさを倍増させる。ホリーが自宅のアパートの窓辺に座って、ギターを弾きながら歌うシーン、そして、どしゃ降りの中、ホリーとポールが抱き合うラストシーンなど、印象的な場面ではこの曲が流れる。

原作は、「冷血」で知られるトルーマン・カポーティだが、原作とは違いハッピーエンディングで終わる。ストーリーには賛否両論があるようだが、ハリウッド映画らしくて、私はよかったと思う。そうでなくても、美しいメロディと洗練されたファッションだけを取っても名作と言われるだけの価値がある。

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「ティファニーで朝食を」
監督: ブレイク・エドワーズ
原作;トルーマン・カポーティ
音楽;ヘンリー・マンシーニ
出演:オードリー・ヘップバーン、ジョージ・ペパード
製作国:アメリカ
製作年:1961年
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