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vol.126 『コーヒー&シガレッツ』 by 藤田庸司


3月のテーマ:コーヒー

お茶の文化は世界各国にある。専門的なことは分からないので、あまり偉そうなことは書けないが、お茶の文化とは単に茶碗に注がれたお茶そのものの文化というよりも、お茶にまつわる"人"の文化ではないだろうか。飲み方や振る舞い方など、まず"人"がいて、そしてお茶があってこそ成り立つ文化だと思う。
普段何気なく飲んでいる一杯のコーヒーを取ってみても、そうした文化を感じることができる。誰と飲むか?どこで飲むか?によって美味しかったり、まずかったり、甘かったり、苦かったり、全く味がしなかったりする。一人飲むコーヒー、友人と飲むコーヒー、恋人と飲むコーヒー、職場で飲むコーヒー、喫茶店で飲むコーヒー、異国で飲むコーヒー、ビーチで飲むコーヒー、たとえ同じコーヒーを飲んだとしても味が違って感じるはずだ。
今回紹介する映画「コーヒー&シガレッツ」も、タイトルにコーヒーという言葉が付いてはいるがコーヒーそのものが主役ではなく、それは人と人をつなぐ単なる媒体に過ぎない。本作ではその媒体を介しての人と人のつながりがドラマチックに描かれている。
11の短編から構成されるこの映画は、どこから観始めても楽しめるオムニバスとなっていて、どのエピソードも部屋に置かれたテーブル、コーヒー、タバコという超シンプルなセットの中、ストーリーらしいものもなく、取り留めの無い主人公たちの会話がテンポよく繰り広げられる。キャストには俳優のみならずロックミュージシャンやラッパーらも名を連ね、全員が本名(もちろん芸名ではあるが)で、まるで素のままであるかのように演じる。たかだか一杯のコーヒーだが、飲む人物、シチュエーションが違うだけで、全く異なったドラマが展開するから面白い。
圧巻は一人二役をこなすケイト・ブランシェット。一方では売れっ子女優であるセレブを、もう一方ではその従妹の売れない女性シンガーを演じ、今流行の"勝ち組"と"負け組"の対比や、二人の感情のもつれをものの見事に演出している。また、大半のエピソードはシニカルで、コミカルで、ユーモアに溢れているが、なかには「自分にとっての人生最後のコーヒーは?美味しいかな?まずいかな?」「それを飲むとき幸せかな?」などと考えさせられる哲学的なエピソードも。

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『コーヒー&シガレッツ』
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:ロベルト・ベニーニ、ケイト・ブランシェット、イギー・ポップ他
製作国:アメリカ
製作年:2003年
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