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vol.124 『ハッカビーズ』 by 相原拓


2月のテーマ:ハート

タイトルとDVDのパッケージからは予想もつかないが、『ハッカビーズ』のテーマは哲学。では、今月のテーマとどう関係あるかというと、原題が『I ♥ Huckabees』なのだ。安直すぎではなかろうかとためらいつつも、ここまでドンピシャなタイトルもそうないと思い、何より好きな映画なので久しぶりにDVDを借りて見返した。

ハートマークを使ったタイトルは「I ♥ NY」に由来する。今や至るところでパロディーされている有名なシンボルだが、世に出たのは1977年、ニューヨークのグラフィックデザイナー、ミルトン・グレイザーによって制作されたロゴマークだという。無論、ハートマークは"love"を意味するが、近年、"love"ではなく"heart"と読むのが一般的になってきているようだ。現に『ハッカビーズ』も英語では「I heart Huckabees」と読まれたり表記されたりする方が多い。その影響もあり、アメリカでは"I totally heart this movie!"のように面白おかしく会話で使われることもある(オックスフォード英英辞典には新しい定義として追加済みだとか)。

そう考えると記号の力はすごい。話し言葉をも進化させてしまうのだから。

日本ではもっと身近なところで活躍している記号もある。我々の言葉にできない微妙な感情を表現してくれる無数の絵文字たち。人によって、どの程度使うかはまちまちだろうが、使用頻度も含め、絵文字はメールのトーン・マナーを左右する重要な役割を担っている。その延長線で近い将来、字幕までもが絵文字だらけになる日が来てもおかしくない。字幕の進化形が業界のスタンダードになった日には柔軟に対応する他ない。それがプロの映像翻訳者の仕事なのだ(ゾッとする話だが)。

というわけで、今月のテーマにまつわる要素はタイトルのみ。この場でハートと哲学を結びつけることはできなかったが、見応えのある映画であることには変わりない。本作は実存主義をテーマにした軽快なコメディー。哲学はちょっと苦手という方も十分楽しめるので、機会があればぜひ観てほしい。

※先日、自宅のノートパソコンにジュースをこぼしてしまい、「H」キーが無効になった。キーのひとつくらい支障はないだろうと侮っていたが、今回は「ハート/ハッカビーズ」だけに予想以上に手こずった...。

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『ハッカビーズ』
監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:ジェイソン・シュワルツマン、ジュード・ロウ他
製作国:アメリカ
製作年:2004年
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