今週の1本

« 2013年6月 | 今週の1本 トップへ | 2013年8月 »

2013年7月 アーカイブ

vol.158『遠い空の向こうに』 by浅野一郎


7月のテーマ:乗り物

2カ月ほど前、タレントの岩城滉一さんが、芸能界初の宇宙旅行に挑戦することになったという記事を読んだ。なぜこの人が? という疑問はさておき、やはりロケットで宇宙を旅するということにロマンを感じる。

さて、今回ご紹介する映画は『遠い空の向こうに』。
NASAのロケット・エンジニア、ホーマー・ヒッカムの自伝を基にして作られた映画で、内容はロケット制作への夢に懸けた少年たちのストーリーをベースに、炭鉱労働者である父親との葛藤などを絡めて描く感動作だ。とてもいい映画なので、まだ見ていない方は是非見てもらいたい。

さて、ここで話はかなり飛ぶ。
たまたま私の大好きなこの映画が、6月30日(日)に開催された「第6回シティライツ映画祭」にて、聴覚障碍者用字幕と視覚障碍者用音声ガイド付きで上映された。当日の模様は以下のページで見ることができるので、まだご覧になっていない方はチェックしてもらいたい。

http://www.jvtacademy.com/news/?id=863

音声ガイドとは、眼の不自由な方のために、人物や風景描写、場所などの情報を音声情報で伝える技術のことだ。いわば、映像の情報を伝えるための黒子的な存在である。映像翻訳では、吹き替え翻訳の原稿を書く仕事に近いと言われたりもする。しかし、翻訳にはもとになる英語の台本があるが、音声ガイドには、台本のような下敷きは一切ない。すべてがオリジナルなので、映画やドラマの脚本を書く仕事に近いと言えるだろう。細かいルールも存在する。"書き手(ディスクライバー)の主観的な表現は一切入れない"というものが特徴の一つだ。

たとえば、映像で「泣いている女性」が映っているとしよう。
ガイドはどのように入れるだろうか? よくやってしまう例として、『悲しそうに泣く女性』というガイド。"悲しそうに"というのは、あくまでもディスクライバーが、その画を見て抱いた感覚であり、こうした場面でのガイドは『うつむいて涙を流す女性』あたりが適当だ。

また、表現も多彩なものが求められる。野原一面に花が咲いているシーンでは、『野原に花が咲いている』よりも、『一面に花が咲き乱れている』というガイドのほうが臨場感がわくに違いない。
それに、すべてを言葉で表現しなければならないため、モノの名前にも通じていなくてはならない。百科事典、辞書などあらゆる資料にあたって、映像に映っているモノの名前を調べることもある。

とても難しいが、映像翻訳を学んだ皆さんのような表現者ならば、きっと興味をそそられ、やりがいを感じてくれるに違いない。

ためしにテレビ欄を見て番組名の前に〔解〕とついている番組を見てみてもらいたい。

─────────────────────────────────
『遠い空の向こうに』
監督:ジョー・ジョンストン
出演:ジェイク・ギレンホール、クリス・クーパー
製作国:アメリカ
製作年:1999年
─────────────────────────────────

vol.159『華麗なるギャツビー』 by野口博美


7月のテーマ:乗り物

最近、仕事でクラシックカーを題材にした作品に触れる機会が多い。昔からコロンと丸みを帯びた外見のクラシックカーが大好きだった私にとっては喜ばしいことだ。現在劇場公開中の『華麗なるギャツビー』にはそんなクラシックカーがたくさん登場する。

舞台は"狂乱の20年代"と呼ばれた1920年代のニューヨーク。謎の大富豪ジェイ・ギャツビーは、かつての恋人デイジーがいつか訪ねてくることだけを願い、毎週末、ド派手なパーティーを豪奢な自宅で開いていた。
"戦争中の功績を称えられ、たくさんの国から勲章をもらった"とか"オックスフォード大卒"など、生い立ちを語るもののどこか胡散臭いギャツビー。そんな彼が所有するのが、鮮やかなイエローで"特注でターボチャージャー付き"のデューセンバーグだ。かっこいいけれど、ちょっと成金趣味な感じは否めない。一方、デイジーの夫トムの愛車はブルーのクーペ。ギャツビーとは対照的に上流階級らしく控えめで上品な外観をしている。その後、ひょんなことからお互いの車を一時的に交換したことで、ギャツビーに思いもよらない悲劇が訪れる。

美しいクラシックカーもたくさん登場するけれど、ティファニーのジュエリーや、プラダ、ミュウミュウの衣装も作品の見どころのひとつ。きらびやかな装飾品を見ているだけで女子力がアップするような気分になる作品だ。

主演のレオナルド・ディカプリオがバズ・ラーマンの作品に出演するのは17年ぶりのことだ。
1996年公開の『ロミオ&ジュリエット』を観てディカプリオに恋をして以来、私は彼の出演作をはじめ、その監督が手がけた作品、その中で気になった俳優の作品...と手当たり次第に映画を観まくるようになった。彼と出会ったことがきっかけで翻訳の道を目指すようになったといっても過言ではないだろう。ただ、当時の私が文集に書いた将来の夢が"字幕なしで映画を理解できるようになること"であるのにはちょっぴり複雑な気分になるけれど。

─────────────────────────────────
『華麗なるギャツビー』
監督:バズ・ラーマン
出演:レオナルド・ディカプリオ、トビー・マグワイア
製作国:アメリカ
製作年:2012年
─────────────────────────────────