今週の1本

« vol.157 『リアリティ・バイツ』 by桜井徹二 | 今週の1本 トップへ | vol.159『華麗なるギャツビー』 by野口博美 »

vol.158『遠い空の向こうに』 by浅野一郎


7月のテーマ:乗り物

2カ月ほど前、タレントの岩城滉一さんが、芸能界初の宇宙旅行に挑戦することになったという記事を読んだ。なぜこの人が? という疑問はさておき、やはりロケットで宇宙を旅するということにロマンを感じる。

さて、今回ご紹介する映画は『遠い空の向こうに』。
NASAのロケット・エンジニア、ホーマー・ヒッカムの自伝を基にして作られた映画で、内容はロケット制作への夢に懸けた少年たちのストーリーをベースに、炭鉱労働者である父親との葛藤などを絡めて描く感動作だ。とてもいい映画なので、まだ見ていない方は是非見てもらいたい。

さて、ここで話はかなり飛ぶ。
たまたま私の大好きなこの映画が、6月30日(日)に開催された「第6回シティライツ映画祭」にて、聴覚障碍者用字幕と視覚障碍者用音声ガイド付きで上映された。当日の模様は以下のページで見ることができるので、まだご覧になっていない方はチェックしてもらいたい。

http://www.jvtacademy.com/news/?id=863

音声ガイドとは、眼の不自由な方のために、人物や風景描写、場所などの情報を音声情報で伝える技術のことだ。いわば、映像の情報を伝えるための黒子的な存在である。映像翻訳では、吹き替え翻訳の原稿を書く仕事に近いと言われたりもする。しかし、翻訳にはもとになる英語の台本があるが、音声ガイドには、台本のような下敷きは一切ない。すべてがオリジナルなので、映画やドラマの脚本を書く仕事に近いと言えるだろう。細かいルールも存在する。"書き手(ディスクライバー)の主観的な表現は一切入れない"というものが特徴の一つだ。

たとえば、映像で「泣いている女性」が映っているとしよう。
ガイドはどのように入れるだろうか? よくやってしまう例として、『悲しそうに泣く女性』というガイド。"悲しそうに"というのは、あくまでもディスクライバーが、その画を見て抱いた感覚であり、こうした場面でのガイドは『うつむいて涙を流す女性』あたりが適当だ。

また、表現も多彩なものが求められる。野原一面に花が咲いているシーンでは、『野原に花が咲いている』よりも、『一面に花が咲き乱れている』というガイドのほうが臨場感がわくに違いない。
それに、すべてを言葉で表現しなければならないため、モノの名前にも通じていなくてはならない。百科事典、辞書などあらゆる資料にあたって、映像に映っているモノの名前を調べることもある。

とても難しいが、映像翻訳を学んだ皆さんのような表現者ならば、きっと興味をそそられ、やりがいを感じてくれるに違いない。

ためしにテレビ欄を見て番組名の前に〔解〕とついている番組を見てみてもらいたい。

─────────────────────────────────
『遠い空の向こうに』
監督:ジョー・ジョンストン
出演:ジェイク・ギレンホール、クリス・クーパー
製作国:アメリカ
製作年:1999年
─────────────────────────────────