発見!今週のキラリ☆

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vol.160 「寄道のプロ」 by 杉田洋子


5月のテーマ:寄り道

大学在学中、1年ほどキューバに留学した。日本人の数は、それほど多くなかったけれど、その間、いろんな目的や事情で来ている日本人に出会った。音楽の修行に来ている人、恋人や旦那さんがキューバ人という人。それから、世界中を旅してまわっているバックパッカー。あるバッグパッカーの青年は、キューバは初めてでスペイン語もできないけれど、このイレギュラーだらけの国でもすぐにコツをつかんで、交渉やヒッチハイクをこなしていた。そんな青年を見て、何度もキューバに来ていたある日本人の男性は、私にこんなことを言った。

「世界中いろんなところに行って、旅慣れていることより
この国を深く知っていることの方が価値がある」

いろんなところに行って、旅慣れているわけではない私はこの言葉に励まされながらも、疑問を覚えた。

「そうだろうか?」

そもそもどちらが優れているとかいう問題ではない。いわば旅のプロと、キューバのプロ。どちらにも、それぞれの価値があるし、完全に切り離すことはできないはずだ。旅をするための方法と、どこかに特化した知識。どちらも備われば百人力だ。

映像翻訳を世界に見立ててみれば、同じような問題に突き当たる。映像翻訳のプロというのは、概して例えるなら「旅のプロ」に近い。方法を知っているということは、適応能力があるということだ。専門外のことが来ても、どうすればベストか、判断し実行できる。もちろん、専門性があまりに高い場合は、お手上げのものもあるだろう。その道のプロに任せるのが得策という場合もある。とはいえ、汎用性や柔軟さは、翻訳者として欠かせない要素であることは間違いない。その上で、詳しいと言える分野がいくつかでもあれば、深い海溝を持つ大海原のように、おっきな翻訳者になれる。

受講生や修了生の皆さんのプロフィールを見る度に、ここにたどり着くまでに、実に様々な経験をされているなと感じる。職歴であったり、趣味であったり、子育てであったり、家族の都合であったり...。いろんなところに寄り道(そんな気軽に呼ぶレベルのものではないとしても)をしてきたことが、翻訳者としての付加価値を与えてくれる。実際に仕事が始まれば、新しい案件に出会うたびに、新たな世界の扉を開くことになる。でも、プロの寄り道は本気の寄り道。納期までに全身全霊で、今向き合っている案件に没頭し、突き詰めることができるかどうか。

そうやって、プロとして活躍している修了生の皆さんを、私は心から尊敬している。なかなか直接言える機会はないけれど、ここで改めて感謝の気持ちを表したい。

いつも、本当にありがとうございます。