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2013年9月 アーカイブ

Vol.162 『グーニーズ』 by杉田洋子


9月のテーマ:地図

地図といえば、やっぱり"宝の地図"ということで、古い上にベタな選択でちょっと照れくさいけれど、『グーニーズ』。

確か小学生の頃、映画館ではなく家で観たと記憶している。あまりにワクワクして、何度も何度も繰り返し観た。今でこそアドベンチャーとかファンタジーめいたものは自ら進んでは観ないが、そういえば子供のころはこういった夢のある冒険ものに心ひかれた。本作には、洞窟、海、海賊、悪党、宝探しなど子供を夢中にさせる要素がてんこもりだ。(宝探しの動機が、ゴルフ場建設のための立ち退きを防ぐためというのが、妙に大人の事情だが...)

『グーニーズ』以降にも、私の子供心をくすぐったイメージやストーリーはいろいろあるが、そういう時に感じるワクワク感は、この映画で体験したワクワク感に起因していたのでは...と思うものも多い。子供が悪い大人を撃退するという、『ホーム・アローン』的要素とか、"怖い母親とドジな息子たちによる盗賊"という、『天空の城ラピュタ』のドーラ一家的な要素とか...。(ちなみに『天空の城ラピュタ』が公開されたのは、『グーニーズ』の翌年の1986年)私は"ハリー・ポッター世代"ではないので、どちらかというと学級文庫にあった"ズッコケ三人組"の方がむしろ親しみがあるが、子供たちが協力して何かに挑むというストーリーには、同世代の子供たちの冒険心をわしづかみにする力がある。

『グーニーズ』には忘れられないショットがいくつもあるが、なかでも憧れだったのは、終盤に出てくる洞窟内のウォータースライダーみたいなやつだ。今となっては、スピードが怖いとか、洞窟には巨大な昆虫や、有害なガスなどがいろいろ出て危ないとか、余計なことばかりが頭をよぎるが、主人公たちが別々の穴から一斉に吐き出され、見上げるとそこには巨大な海賊船が...というシーンはまさに圧巻であった。

本作の製作総指揮を務めるスピルバーグは、ディズニーランドの"カリブの海賊"に着想を得たそうだが、先に『グーニーズ』を観た私としては、このシーンが心に刻み込まれていたからこそ、"カリブの海賊"のアトラクションを初めて体験した時の感激が倍増したと思っている。さらに世界や映画への純粋な憧れを抱かせてくれたこの映画は、今こうして映像翻訳の道を歩んでいる漠然としたきっかけにもなっているのかもしれない。

『グーニーズ』のDVDには、大人になった彼らが集結して、ぶっちゃけトーク満載の解説をするという特典映像が入っているらしいのでぜひ観てみたい(ような、夢を壊したくないような...)。

ところで、私はなんといってもデータ役のキー・ホイ・クァンが好きだった。『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』で再会した時にはかなり興奮した記憶がある。やっぱり昔からしょうゆ顔が好きだったのかもしれない。

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『グーニーズ』
監督:リチャード・ドナー
出演:ショーン・アスティン、ジェフ・B・コーエン、コリー・フェルドマン、
キー・ホイ・クァン
製作国:アメリカ
製作年:1985年
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vol.163 『長い散歩』 by 相原拓


9月のテーマ:地図

みなさんは出かけるときに地図を使うタイプですか? 使わないタイプ?

僕は地図なしでは生きていけない無類の方向音痴。道に迷うだけでなく、地名など地理的な知識も恥ずかしいほど欠けている。過去には王子と八王子を間違えて、予定していた舞台を見逃し、仕方なく近くでラーメンだけ食べて帰るという苦い思いもした。仕事で外出するときは、iPhoneのマップアプリだけでは不安なので、必ず紙の地図も用意するようにしている。そんな僕も、旅行先で散歩するときに限っては、あえて地図を使わない。使いたくない。

理由は単純で、せめて旅行中ぐらいは、日ごろ依存している地図の縛りから解放されたいからだ。もちろん条件はある。まず、一人旅であること。道に迷って同行者に迷惑をかけるわけにはいかない。あと、治安が悪くない場所であること。リアルな危険が伴うような旅では解放されたいなんて贅沢は言っていられない。これらの条件さえ満たしていれば、安心して地図を手放し、方向音痴ならではの観光が楽しめる。僕の場合、前提として迷子になることが保証されているので、流れに身を任せ、このまま行くとどこにたどり着くんだろう、そんな期待を胸に、いわゆる観光スポットにはならないような未知の場所へと迷い込んでいく。小さなスリルに過ぎないが、これが楽しい。方向音痴で悩んでいる人がいれば、騙されたと思ってぜひ試してほしい。

さて、今回紹介したい映画は奥田瑛二監督の『長い散歩』。タイトルからは想像もつかないが、本作は小さな少女の誘拐を巡る逃避行を描いたヒューマンドラマ。高校の校長職を定年退職した初老の安田松太郎は、妻の死をきっかけに罪滅ぼしの旅に出る。過去の人生を清算するつもりで質素なアパートに移り住むと、隣の部屋には母親に虐待されている少女、幸(さち)がいた。事情を知った松太郎は幸を連れて部屋を逃げ出すが、誘拐犯として指名手配されてしまう。

深い傷を負っている幸は、虐待から救ってくれた松太郎にもなかなか心を開こうとしない。雨の中、近づこうとする松太郎に、「クソジジイ! 触るな!」と怒鳴るシーンが特に印象深い。そんな幸だが、警察から逃げる旅を続けるうちに、二人の心の距離は徐々に縮まっていき、いつしか幸は松太郎をおじいちゃんと呼ぶようになる。

幼児虐待という重いテーマを扱っている作品だが、孫のように幸を可愛がり、自分を犠牲にしてまでも守り続ける松太郎のその勇姿に心を打たれた。僕の呑気な一人旅とはわけが違うが、地図を持たずに、行く当てもなく、ただただ"長い散歩"を続けるこの二人に強く共感できる。

余談だが、タイムリーなことに先週放送された『アメトーーク!』のテーマは「ウォーキング芸人」で、ゲストのオードリー若林が「今昔散歩」という地図アプリを紹介していた。これを使うと、東京を中心に江戸時代や明治時代の地図を現代の地図と重ね合わせて見ることができる。早速ダウンロードしてみたが、見た目もレトロでタイムスリップしたような気分が味わえる新鮮なアプリだ。今度の休日は、江戸の町を散歩して迷子になってみたい。

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『長い散歩』
監督:奥田瑛二
出演:緒形拳、高岡早紀、松田翔太他
製作国:日本
製作年:2006年
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