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2013年12月 アーカイブ

vol.169『大災難P.T.A.』 by小笠原ヒトシ


12月のテーマ:帰省

寮生活をしていた高校時代から今までの間、ほとんどを実家から離れて暮らしてきた私にとって、帰省はとてもなじみ深い"行事"である。実家のある札幌まで、函館から深夜の鈍行列車に7時間揺られて帰ったこともあれば、今は東京から飛行機で1時間半だ。

数ある帰省歴の中でも、長時間・長距離の移動を経たり、忙しい中でスケジュールをやりくりしたりと、困難な状況を克服して帰れた時の喜びは大きい。

仕事で長期滞在していたルーマニアからドイツ経由でアメリカに立ち寄り、そこから日本まで移動したことがあった。丸一日以上かかったはずだ。半年で10キロ以上も痩せてしまった過酷な仕事から解放された喜びもプラスされ、待ちに待った帰省だった。

また、2月とはいえ20度を超える気温のロサンゼルスから北海道へ移動したときのこと。ギリギリまで撮影現場にいたため、Tシャツと短パン姿のまま出国し、マイナス10度の千歳空港へ降り立った。冬服はすべてスーツケースの中。乗り換えのスケジュールがタイトで着替える時間もなく、札幌駅へ。移動中、ほとんど外気にふれなかったおかげで寒さは意外と気にならなかったが、周りの好奇の視線は痛かった。

『大災難P.T.A.』は、まさにアメリカ人の"帰省"をテーマにした映画だ。広告代理店の重役ニール(スティーブ・マーティン)は、家族と一緒にサンクスギビングデーを過ごすため、仕事場のニューヨークから自宅のあるシカゴへ向かう。その途中で様々な災難(天災&人災)に見舞われるというロードムービーコメディだ。

ニールは、空港へ向かうために確保したタクシーをデブで無神経で厚かましいセールスマンのデル(ジョン・キャンディ)に奪われる。予約したはずのファーストクラスが取れていなくて、エコノミークラスへ。なんとその隣にはデルが座っている。その上、飛行機は悪天候のため行先をカンザス州のウィチタに変更。その後の乗継便はなく、やむなく宿泊したモーテルではデルとダブルベッド一つの部屋で過ごすことに。その後も、宿泊中に泥棒に入られ財布の中身を盗まれたかと思
えば、やっとのことで乗った列車が故障、レンタカーは炎上と、これでもかというほどの災難が続き、なんとか家族の待つシカゴにたどり着くというストーリーだ。

1988年の日本公開時(今も?)、日本ではそれほど知名度が高くなかったスティーブ・マーティンだが、アメリカでは年に2本のペースで新作映画の主演を務める超売れっ子。監督も『ブレックファスト・クラブ』『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』『フェリスはある朝突然に』といった青春映画のヒット作を連発していたジョン・ヒューズ。当時、アメリカ文化へのあこがれがマックスで、アメリカンコメディに傾倒し、サタデーナイトライブのビデオやスティーブ・マーティンの主演映画を観まくっていた私は、当然のように劇場へ足を運んだ。控えめに笑っている他の観客をよそに、ひとり大爆笑。しかし、サンクスギビングに対するアメリカ人の感覚がイマイチよく分かっていなかった。なぜそこまでして帰らなければならないの?次の日に行けばいいじゃない、と。

日本の帰省ラッシュといえば、年末年始やゴールデンウィーク、お盆。アメリカでは、それに相当するのがサンクスギビングとクリスマスだ。そのことを、後年アメリカに住んでいた際に実感したとき、あらためてこの映画の面白さを理解した。年末に帰省するなら、やっぱり大みそかには家に着いていたい。そのためには、なんとかしてたどり着こうという気持ち。帰省というキーワードを使えば、納得だ。

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『大災難P.T.A.』
製作:ジョン・ヒューズ
監督:ジョン・ヒューズ
脚本:ジョン・ヒューズ
出演:スティーブ・マーティン、ジョン・キャンディ
音楽:アイラ・ニューボーン
製作国:アメリカ
製作年:1987年
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