今週の1本

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2014年1月 アーカイブ

vol.170『アメリカン・ハッスル』 by藤田庸司


1月のテーマ:縁起

皆様、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

さて、初夢の中で富士山や鷹、茄子などを見ると縁起が良いとよく言われるが、普段からほとんど夢を見ることのない僕は今年も爆睡の果てに元旦を迎えた。僕はどちらかというと貧乏クジを引く性質で、ジャンケンすら負けることが多いので、縁起や運などにあまり重きを置かないようにしている。ビートルズの曲『レット・イット・ビー』の歌詞が繰り返すように、縁起を担ごうと、神頼みをしようと、物事は進む方向にしか進まず、あるがままを受け入れていくのが自然だと思っていたりする。もちろん、勝負の世界などには"時の運"という言葉が存在することも知っているが、それは競う者同士が確かな技術や自信をもってぶつかり合うシチュエーションにのみに当てはまるだろう。負けられない勝負の行方を、担いだ縁起や神に頼るだけではいい結果など生まれるはずがない。"運命は自分で切り開くもの"。今日紹介する映画を観終わった後、そんな言葉が頭をかすめた。クリスチャン・ベイル演じる天才詐欺師が命をかけた勝負に挑む『アメリカン・ハッスル』である。

表の顔はランドリー経営者である詐欺師、アーヴィン・ローゼンファルド(クリスチャン・ベイル)と彼のパートナー兼愛人のシドニー(エイミー・アダムズ)は、二人を逮捕したFBI捜査官リッチ―(ブラッドリー・クーパー)に、減刑をエサにおとり捜査への協力を強いられる。アラブの大富豪をでっち上げ、巧妙なおとり捜査によりカジノに絡む市長のカーマイン(ジェレミー・レナー)や多くの大物汚職政治家たちを罠にかけていくが、突如アーヴィンの妻ロザリン(ジェニファー・ローレンス)がこの捜査をかき乱し、やがてそれはアメリカを揺るがす一大スキャンダル事件へと発展していく...。

実話に基づく本作は2時間を越える大作となるが、キャスト陣の演技の素晴らしさもあり、全く退屈することなく観ることができた。とりわけ、1:9分けのバーコードヘアにブヨブヨの腹、『アメリカン・サイコ』や『リベリオン』で見られるシャープな印象とは真逆のクリスチャン・ベイルの役作りは、かつてロバート・デ・ニーロ(本作でも凄まじい存在感を放つチョイ役で出演)が『レイジング・ブル』の中で見せた脅威の肉体改造アプローチを彷彿させる。最大の見どころは、クライマックスまで続くFBIとアーヴィン、そしてマフィアのスリリングな騙し合い。最後まで気を抜けない。加えて、物語の伏線として、アーヴィンと、妻ジェニファー、愛人エイミーとの刹那的な三角関係が、ハードボイルドな展開の中に切なさを醸し出す。舞台が1970年代後半ということもあり、いわゆるアメリカン・ニューシネマの類が好きな方には作中のファッションや音楽も楽しいだろう。

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『アメリカン・ハッスル』
監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:クリスチャン・ベイル、エイミー・アダムス
制作国:アメリカ
制作年:2013年
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vol.171『ハリーポッターと秘密の部屋』 by 平石真紀


1月のテーマ:縁起

先日、久しぶりにヘビの夢を見た。私の中でヘビが出てくる映画といえば、『ハリーポッターと秘密の部屋』だ。

ホグワーツ魔法魔術学校の2年生に進級した12歳のハリーは、親友のロンとハーマイオニーとともに充実した学校生活を送っていた。しかし、やがて学校で生徒たちが石になってしまうという不気味な事件が起こり始める。「その原因は、ハリーが学校の伝説となっている"秘密の部屋"の扉を開けたことにある」。そんな噂が校内に広まり、ハリーは身の潔白を証明するために、親友たちと秘密の部屋を探し出す。部屋にたどり着いたハリーを待ち受けていたのは、事件の主犯であるトム・マールヴォロ・リドル(後のハリーの宿敵、ヴォルデモート卿)と見た者を石にしてしまうヘビ、バシリスクだった。全長30メートルはあろうかという巨大なヘビが、毒のある牙でハリーに襲いかかる。ハリーは複雑に入り組んだ排水路を駆け回りながら懸命に戦い、最後にバシリスクの頭を剣で貫いて倒す。

特にヘビ好きというわけではないし、は虫類は苦手なほうだが、"お金に縁のある生き物"、"不良長寿のシンボル"と言われると、夢でヘビを見るのも悪くない。むしろ、何か縁起のいいことが起りそうな気がする...。そんな安易な考えをするのは私だけだろうか? などと思っていたら、また本作を見たくなってきた。

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『ハリーポッターと秘密の部屋』
監督:クリス・コロンバス
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン
製作国:アメリカ
製作年:2002年
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vol.172『ジャズ大名』 by 板垣七重


1月のテーマ:縁起

新しい年を迎えて、お守りを買ったり、おみくじを引いたりと、縁起を担ぐ人は多いだろう。でも、私はあまり縁起物を買ったり占いをしたりしない。それよりも、自分の意識をポジティブに持っていくことで状況が変わり、いい運気が流れ込んでくると信じている。その方法のひとつが、「笑う」ことだ。

だから、今回は笑える映画ということで、奇想天外なストーリーとベタなギャグを掛け合わせた、岡本喜八監督の「ジャズ大名」。舞台は戊辰戦争で荒れる幕末の駿河にある小藩。眼の前は海の難所、すぐ後ろは山の難所というこの小藩では、官軍と幕府軍が利便性の良さから城内を通り抜けていく。そんなある日、アメリカで南北戦争が終わり奴隷から解放された黒人3人が小舟に乗って漂着する。3人は生活が苦しいアメリカを離れ、ジャズの演奏で食費を稼ぎながらアフリカの母国に帰る途中、嵐に会ったのだった。好奇心旺盛な藩主は城の地下にある座敷牢に3人を招き入れ、やがて彼らの奏でるジャズの虜になる。そしてしまいには、地上で激化する戦乱をよそに城中の人間を地下に集め、和楽器も交えての一大ジャズセッションを繰り広げる。

何も知らずに観ると度肝を抜かれる展開だが、なぜかあたたかい笑いがこみあげてくる。深刻な争いから完全に超越した次元で音楽に酔いしれる姿に、人間の滑稽さを感じるからなのか。はたまた支離滅裂な流れがむしろ人間らしく愛らしいからなのか。

疲れたとき、落ち込んだとき、映画を観てひたすら笑うと心と体の緊張がほぐれて気持ちが楽になる。そしてその時間が、前に進む力を生み出してくれる。今年もたくさん笑える1年にしたい。

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『ジャズ大名』
監督:岡本喜八
出演:古谷一行、財津一郎、本田博太郎、唐十郎
製作国:日本
製作年:1986年
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