今週の1本

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vol.172『ジャズ大名』 by 板垣七重


1月のテーマ:縁起

新しい年を迎えて、お守りを買ったり、おみくじを引いたりと、縁起を担ぐ人は多いだろう。でも、私はあまり縁起物を買ったり占いをしたりしない。それよりも、自分の意識をポジティブに持っていくことで状況が変わり、いい運気が流れ込んでくると信じている。その方法のひとつが、「笑う」ことだ。

だから、今回は笑える映画ということで、奇想天外なストーリーとベタなギャグを掛け合わせた、岡本喜八監督の「ジャズ大名」。舞台は戊辰戦争で荒れる幕末の駿河にある小藩。眼の前は海の難所、すぐ後ろは山の難所というこの小藩では、官軍と幕府軍が利便性の良さから城内を通り抜けていく。そんなある日、アメリカで南北戦争が終わり奴隷から解放された黒人3人が小舟に乗って漂着する。3人は生活が苦しいアメリカを離れ、ジャズの演奏で食費を稼ぎながらアフリカの母国に帰る途中、嵐に会ったのだった。好奇心旺盛な藩主は城の地下にある座敷牢に3人を招き入れ、やがて彼らの奏でるジャズの虜になる。そしてしまいには、地上で激化する戦乱をよそに城中の人間を地下に集め、和楽器も交えての一大ジャズセッションを繰り広げる。

何も知らずに観ると度肝を抜かれる展開だが、なぜかあたたかい笑いがこみあげてくる。深刻な争いから完全に超越した次元で音楽に酔いしれる姿に、人間の滑稽さを感じるからなのか。はたまた支離滅裂な流れがむしろ人間らしく愛らしいからなのか。

疲れたとき、落ち込んだとき、映画を観てひたすら笑うと心と体の緊張がほぐれて気持ちが楽になる。そしてその時間が、前に進む力を生み出してくれる。今年もたくさん笑える1年にしたい。

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『ジャズ大名』
監督:岡本喜八
出演:古谷一行、財津一郎、本田博太郎、唐十郎
製作国:日本
製作年:1986年
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