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vol.168 『Go Goa Gone』 by 藤田奈緒


11月のテーマ:学び


このところ今までになく劇場公開されるインド映画の数が増えている。スピルバーグが絶賛したという『きっと、うまくいく』はわりと話題になったので、名前ぐらい聞いたことがある人もいるかもしれない。 とはいえやはり多くの人にとっては、インド映画といえば『ムトゥ 踊るマハラジャ』の歌って踊るイメージが根強く残っているのが現状だろうか。

『Go Goa Gone』はそんなステレオタイプのインド映画のイメージを覆す新感覚の1本だ。ボリウッド初のゾンビ・コメディという触れ込みの大爆笑ゾンビ映画。ハリウッド映画顔負けのテンポの良さで、108分間見飽きる心配なし。(3時間以上の大作が多いインド映画の中では珍しく短め。最近はこのぐらいのとっつきやすい尺の作品も増えているらしい)

主人公はイマドキの若者3人組。理由をつけては仕事を休憩してトイレでマリファナを吸うダメ会社員のハルディクとラヴが、ひょんなことからマジメ会社員の親友バニーの出張にくっついて、南インドのゴアへ出かけることに。そこでロシアンマフィア主催のレイブパーティーに参加した3人はとんでもない騒動に巻き込まれる。新開発のドラッグを試した客が次々にゾンビに姿を変え、血を求めて人間を貪り食うようになってしまったのだ。

インドにはお化けは存在しても、ゾンビなど存在しない。初めてゾンビなるものを目にした3人は恐れおののき逃げまどう中で、会社の社訓を思い出す。"What do we KNOW... What have we LEARNT?"(経験から学べ)。そしてパニックに陥りながらも、必死でゾンビに関する知識を総動員して対策を練るのだった。

...という感じで悪ノリ満載のおバカ映画なのだが、窮地に陥りながらもその状況から学ぶ姿勢を忘れない3人組を見ていて、ふと自分を振り返った。私って最近"学ぶ"ことを放棄してないだろうか? 身近なエピソードで言うと、お酒を飲むたびにiPhoneを失くし続けるという悪癖からはようやく卒業したものの、その他の小さな失くし物(よくあるのはピアス)は後を絶たない。外したら必ず同じ場所にしまえば済むことなのに、なぜ学ばないのか。相方を失くしたピアスは増える一方だ。

とはいえ、そんな私にもこの頃、密かに誇りを感じていることが1つある。映像翻訳ディレクターの仕事に就いてちょうど10年目なのだ。最近立て続けに、10年近くともに働き続けた2人の可愛い同僚たちが結婚し、1人はフリーとなり新しい世界に旅立った。出会った当初は大学を出たばかりだった彼女たちが人生の節目を迎えたことで、それだけの長い時間が経ったことを実感した。それと同時に、10年以上前、この世界に飛び込んだ時には映像翻訳のイロハも知らなかった自分が、知らぬ間にそれなりの経験と知識を身に付けていたということに気づかされた。つまり年月と毎日の仕事の積み重ねが、私に"学び"を与えてくれていたのだ。そのことにじわじわと感謝しているところなのである。

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『Go Goa Gone』
監督:クリシュナ・D・K、ラージ・ニディモル
出演:サイフ・アリー・カーン、クナール・ケームーほか
制作国:インド
制作年:2013年(日本では劇場未公開)
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