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vol.170『アメリカン・ハッスル』 by藤田庸司


1月のテーマ:縁起

皆様、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

さて、初夢の中で富士山や鷹、茄子などを見ると縁起が良いとよく言われるが、普段からほとんど夢を見ることのない僕は今年も爆睡の果てに元旦を迎えた。僕はどちらかというと貧乏クジを引く性質で、ジャンケンすら負けることが多いので、縁起や運などにあまり重きを置かないようにしている。ビートルズの曲『レット・イット・ビー』の歌詞が繰り返すように、縁起を担ごうと、神頼みをしようと、物事は進む方向にしか進まず、あるがままを受け入れていくのが自然だと思っていたりする。もちろん、勝負の世界などには"時の運"という言葉が存在することも知っているが、それは競う者同士が確かな技術や自信をもってぶつかり合うシチュエーションにのみに当てはまるだろう。負けられない勝負の行方を、担いだ縁起や神に頼るだけではいい結果など生まれるはずがない。"運命は自分で切り開くもの"。今日紹介する映画を観終わった後、そんな言葉が頭をかすめた。クリスチャン・ベイル演じる天才詐欺師が命をかけた勝負に挑む『アメリカン・ハッスル』である。

表の顔はランドリー経営者である詐欺師、アーヴィン・ローゼンファルド(クリスチャン・ベイル)と彼のパートナー兼愛人のシドニー(エイミー・アダムズ)は、二人を逮捕したFBI捜査官リッチ―(ブラッドリー・クーパー)に、減刑をエサにおとり捜査への協力を強いられる。アラブの大富豪をでっち上げ、巧妙なおとり捜査によりカジノに絡む市長のカーマイン(ジェレミー・レナー)や多くの大物汚職政治家たちを罠にかけていくが、突如アーヴィンの妻ロザリン(ジェニファー・ローレンス)がこの捜査をかき乱し、やがてそれはアメリカを揺るがす一大スキャンダル事件へと発展していく...。

実話に基づく本作は2時間を越える大作となるが、キャスト陣の演技の素晴らしさもあり、全く退屈することなく観ることができた。とりわけ、1:9分けのバーコードヘアにブヨブヨの腹、『アメリカン・サイコ』や『リベリオン』で見られるシャープな印象とは真逆のクリスチャン・ベイルの役作りは、かつてロバート・デ・ニーロ(本作でも凄まじい存在感を放つチョイ役で出演)が『レイジング・ブル』の中で見せた脅威の肉体改造アプローチを彷彿させる。最大の見どころは、クライマックスまで続くFBIとアーヴィン、そしてマフィアのスリリングな騙し合い。最後まで気を抜けない。加えて、物語の伏線として、アーヴィンと、妻ジェニファー、愛人エイミーとの刹那的な三角関係が、ハードボイルドな展開の中に切なさを醸し出す。舞台が1970年代後半ということもあり、いわゆるアメリカン・ニューシネマの類が好きな方には作中のファッションや音楽も楽しいだろう。

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『アメリカン・ハッスル』
監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:クリスチャン・ベイル、エイミー・アダムス
制作国:アメリカ
制作年:2013年
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