発見!今週のキラリ☆

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vol.176「一生理解できないかもしれないモノに対する恐れと謎と憧れと」 by浅川奈美


3月のテーマ:謎

この世の中にある、多くのことに対して私は素人であり、いくつかの分野においては完全に無知であるということを、痛感する日々。なかでもこと理系分野のものに関しての音痴具合は甚だしい。「生まれつき自分にはその素養がないから」というか「耐性がないから近づいたらきっと蕁麻疹かなにかが出ちゃうよ」みたいな固定観念にとらわれ、背を向け続けた学問。数学である。

ご存知、数学には明晰な答えが常にある。
例えば、このコラムを読まれるどのぐらいの方がわかるだろうか?【0.9999......】と、小数点以下に無限に9が続く数と、【1】はどちらが大きいか?

0.9999...... < 1  【不正解】
0.9999...... = 1  【正解】

中学あたりで出てくる循環小数。私は自分の直観とは全く違うこの答えをなかなか受け止められなかった。ちゃんと授業も出ていたのに、答えを導く過程も何とか理解できていたのに、でも消化できない。学力を評価するにあたり、全く遊びのない採点方法で振り落とされるのが数学。本当はあいつと仲良くなりたかったのに...。この学問において自分が落伍者になってきたのを気づき始めたころ、「できない=嫌い」という感情はいとも簡単にそして巨大に私の中で膨くれ上がった。その後はいうまでもない。微塵の迷いもなく文系に進んだ。微分・積分も関数も、定理も証明も素数も"任意のX"とやらともおさらばの人生を過ごし今に至る。

それなのに...。数学嫌いなのに数学を無視できない。「仲間にいーれーて」って言えないまま、もうずっと何年も柱の陰からじっと憧れのまなざしを投げかけている(ちょっと怖い)。なんだ、この乙女心は。その理由を検証してみる。


理由①:リーマン予想(Riemann Hypothesis)
ドイツの数学者ベルンハルト・リーマンによって1859年11月提唱された、ゼータ関数の零点の分布に関する予想である。ミレニアム懸賞問題(millennium prize problems)のひとつ。解明に100万ドルの懸賞金がかけられている数学の問題だ。

言うまでもないがこの私がリーマン予想に取り組んでいるというわけではない。私が魅せられてしまうのは、150年もの間、天才と呼ばれる数学者たちの挑戦をもってしても、未だ謎のままであるという事実。そしてこの問題に取りつかれてしまった数学者の中には、精神を病んでしまう人もいるという過酷な世界だということ。さらに今、現代社会における情報セキュリティは巨大素数を使った暗号技術によるものであり、もしリーマン予想の解決によって素因数分解の画期的な方法と活用が見つかれば、身の回りの当たり前が一気に崩壊するということ。国家機密から個人情報、あらゆるものがセキュリティフリーになってしまうのだ。なんか、すごくね?なのだ。でもリーマン予想がどれだけの謎で、解明されるまで天才とスパコンをもってしてもどれぐらい大変で大体あとどれぐらいかかるのか、みたいなことがさっぱりわからん。だからこそ、なんかすごくミステリーで魅惑でサスペンスで、私はただ外野でソワソワし続けているだけなのである。


理由②:たけしのコマ大数学科
ビートたけし、現役東大生の女子2人、コマ大数学研究会(頭脳ではなく体を使って解明する担当)の3組が、毎回1問ずつ出題されるさまざまな数学の問題に挑むTV番組だ(現在は放送終了)。
「もし違う道を選ぶなら、数学の研究者になりたかった」という、理系出身のビートたけしが見事に数学の難問を解いていく様がかっこよくて、本当によく見ていた。でも私の数学的能力は一向に上がらずいつまでたってもアプローチ方法はダンカン率いるコマ大学数学研究会チームであった。

映画監督としても知られるビートたけし(北野武)だが、映画の撮り方について因数分解を取り入れて語るのを読んだことがある。「不思議の国のアリス」の作者、ルイス・キャロルも数学者であったし、多くの作家が数学に造詣が深い。論理的思考。これなのか?これが私にはないのか?


理由③:数学を知らない人は、本当の深い自然の美しさをとらえることは難しい。
アメリカの物理学者、リチャード・P・ファインマンの言葉だが...。
な、なんてことを言うのだ!数学を「美しい学問」と言い切る人たちの放つ驚くほど高いプライドと、それを理解できないものに対する嘲笑をも含んでいそうな自信。数学嫌い差別だ!なんて吠えてみるものの、その山に登ったことのない私には見たことのない景色が広がっているのだろう。ファイマンさん。私の目に映る世界とあなたが見ていた世界はどんな風に違うのだろう。

今からでも目指してもいいですか?リケジョ。

まずは累計16万部を超えるライトノベル「浜村渚の計算ノート」からはじめるとするか。シリーズの著者、青柳碧人氏が語っていたことに激しく感動したので。

「僕は小説を書くかたわら、塾で中学生に勉強を教えています。あるとき生徒から"数学を勉強して何の役に立つの?"と聞かれたんです。"いい大学に進学できるから"と答えるのは簡単ですが、そんな言葉で生徒をねじ伏せたくはありません。そこで自分なりの答えを出そうと思い、数学が排除された世界を舞台にこの物語を書きました」
((『ダ・ヴィンチ』8月号「文庫ダ・ヴィンチ 一般文芸×ライトノベル キャラ立ち小説が今面白い!!」より))