発見!今週のキラリ☆

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vol.178 「表現者は"音"を追求しなくてはいけない」 by丸山雄一郎


3月のテーマ:音

日本語の"音"というものを意識したのはいつからだろう。編集者という仕事を選んでからは、原稿の"音"をかなり意識してきた。特に作家さんの原稿をチェックする時や、ちょっと笑えるような原稿を書かなくてはいけない時にはこの"音"を重視してきた。
"音"とは、リズムだ。どんなに内容がよい原稿でも、リズムが悪いと読者は読むのがつらくなる。プロ作家とアマチュア作家の原稿の差を「巧みなストーリー」や「表現の差」だと考える人は多いと思うが、実はこのリズムの差もかなり大きい。

表現者は言葉のリズムを重視している。俳人や詩人、映画やドラマの脚本家、TVのディレクター、CM監督、作詞家、新聞記者、編集者といった言葉を生業にしている人たち全てがそうしていると言っていい。彼らは自分が表現したい中味に徹底的にこだわりを持つ一方で、それを多くの人に伝える手段として言葉のリズムも重視しているのだ。だからこそ、私たちの心に残るような詞や映画が生まれ、CMのキャッチフレーズやドラマのセリフが世間の話題となる。ちょっと古くて恐縮だが(笑)、「じぇじぇじぇ」も「倍返しだ」もリズムがいいからこそ流行語になったと言える。

翻訳者さんの原稿も同じだ。僕が翻訳者さんから頂いた原稿のちょっとした点を直すのは、内容がどうのこうのというよりも、リズムの悪さを矯正するために直していることのほうが圧倒的に多い。

だからこのコラムを読んでくださった翻訳者さんや、翻訳者を目指している皆さんにはぜひ日本語のリズムを意識して欲しい。それはいい本や映画の字幕をたくさん自分の中に吸収することで、きっと培われてくるはずだ(ただし、じっくり読み、しっかり見るように。赤線を引く、メモを取るくらいのことが最低限必要だ)。

ちなみに僕が初めて"音"を意識したのは幼稚園の時だ。僕の年子の弟は「尚」(たかし)という。丸山家では代々男子に「雄」という文字を使う(僕もそうだ)のに、弟は尚。どうしてなのかと母に問いただしたところ、母は「音がいいと思ったから」と教えてくれた。「雄一郎」より「尚」のほうが確かに"音"がいい気がする。幼心にそう思った。僕が"音"にこだわるのはこんな経験があるからなのかもしれない。