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vol.179 「ポール・マッカートニー、次は軽やかに蝶に乗る!?」 by藤田 奈緒


4月のテーマ:NEW

先週、日本中を駆けめぐった嬉しいニュース。最新アルバム『NEW』を引っ提げて昨年11月に11年ぶりの来日公演を果たし、あらゆる世代のビートルズ、ウイングスファンを沸かせたポール・マッカートニーが、なんと5月に再来日するという。会場は7月からの取り壊しが決定している国立競技場。ポールにとって初の屋外公演だとか。この喜ばしいニュースを耳にし、父親譲りのポールファンとして、そして1人の映像翻訳者として、胸を躍らせた前回の来日時の記憶が鮮やかに蘇った。

昨年の11月、JVTAはポールの公演に字幕で協力をした。海外アーティストが来日する際、パンフレットや公式サイトなどのテキスト翻訳が発生するのはよくあること。だがこのポールの公演については、JVTAとして"初"の挑戦が求められた。公演中のポールのMCに、同時に字幕をつけてステージ横のスクリーンに映し出すというのだ。ステージ裏で同時通訳をするのか?  通訳内容をどうやって瞬時に字幕にするのか?  どうやって時差なくそれをスクリーンに出すのか?  初めてこのリクエストを聞いた時は、正直頭の中は戸惑いでいっぱいだったが、それでも私たちの本分である映像翻訳というスキルが存分に活かせる、という思いに心は浮き立った。

その後の詳細は割愛するが... 担当翻訳者さんは入念な事前勉強を経て当日を迎えた。ポールの性格、バックグラウンド、それまでのワールドツアーのMCの内容、来日してからは公演前の行動などなど。ポールがMCで話す可能性がある内容を想定し、できる限りの知識を頭に詰め込んだ。結果は大成功。初日こそテクニカルな問題で多少のタイミングずれはあったものの、大好評のうちに終わったと言っていいと思う。最終日、実際にアリーナから字幕を見た私が言うのだから間違いない。会場には本当に幅広い年齢層のファンが詰めかけていた。目の前にいた老夫婦が、ポールが何か話すたびに一生懸命にスクリーンの字幕を追う様子を見た時は、思わず笑みがこぼれた。

実はこの同時字幕方式が採用されることになった背景には、ポール自身の強い思いがあった。打ち合わせたポールのマネージャーさんの話によると、ポールは昔から言葉に対して敏感な人で、自分の子どもたちに正しい文法を指導するのは日常茶飯事。マネージャーさん本人にいたっては大昔、ポールあてに書いた手紙が真っ赤に添削されて戻ってきたこともあったとか。そんなポールが、自分の肉声を生で直に日本のファンに伝えたいということで、同時通訳ではなく、同時字幕という形を希望したというのだ。この裏話を聞いて、感激と興奮でぼーっとした頭で帰社したのを覚えている。人の思いと思いをつなぐ、映像翻訳という仕事に関わる者として、これほど嬉しいことはない。私たちに、こんな形で新しいチャレンジを与えてくれたポールに、心から感謝したい。

ポールをよく知らない人がいたら、ぜひ最新アルバムのタイトル曲『NEW』を聴いてほしい。彼の実直で前向きな性格だけでなく、"メロディメーカー"ポールが健在、というよりむしろ進化中であることを感じ取ってもらえるはずだ。5月の再来日公演をお楽しみに。ポールはきっと、また新たな(NEW)風を吹かせてくれるだろう。