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2014年3月 アーカイブ

vol.176『8マイル』 by當麻さやか


3月のテーマ:音

私はラップが好きだ。その魅力は、歌とは違うリズムやパワーにある。ラップがテーマの映画といえば、2002年にアメリカで公開された『8マイル』。自ら主演するエミネムの半生に基づいた自伝的映画である。アイドル的映画になるだろうという周囲の予想を裏切り、映画とサウンドトラックはともに大ヒットした。ちなみにこの作品には、エミネムのガールフレンド役で09年に32歳の若さで急逝した故・ブリタニー・マーフィが出演している。

舞台は自動車産業が衰退していた1995年のデトロイト。エミネム演じる白人の青年ジミーは一緒に住んでいたガールフレンドと別れ、母親と幼い妹が暮らすトレーラーパークに居候することに。ジミーは昼間は自動車工場で働き、週末の夜は地元のヒップホップクラブ・シェルターでラップバトルに出場する。優勝を目指すジミーは毎週バトルに出場するが、出場者のほとんどが黒人という環境にプレッシャーを感じ、なかなか本来の才能を発揮できない。ジミーがラッパーとして成功し、富裕層と貧困層を隔てる実在の道路「8マイルロード」を越えられる日は来るのだろうか――。

ストーリーラインは、はっきり言ってそんなに面白いものではないが、醍醐味はところどころに散りばめられた、エミネムのフリースタイル・ラップだ。冒頭の場面では緊張のあまりステージ上で黙り込んでしまうジミーが、最後のバトルで相手を打ち負かすシーンは、本当にすがすがしい。

エミネムが歌う主題歌『Lose Yourself』は、2003年のアカデミー賞で歌曲賞を受賞した。ラップ・ソングがアカデミー歌曲賞を受賞したのはこれが初めてだ。「一生に一度のチャンスをモノにしろ」というサビの歌詞にはとても励まされる。ラップの部分は日本語字幕を表示せずに、ぜひ英語の音だけで見てほしい。音やリズム、言葉遊びで表現するラップの面白さは日本語訳では完全に理解できないからだ。

「努力をしていてもなかなか結果を出せない」「新しいことに挑戦しながらもがいている」という人は多いはず。そんな人たちにこそ、ぜひこの映画を観てほしい。

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『8マイル』
監督:カーティス・ハンソン
出演:エミネム、キム・ベイシンガー、ブリタニー・マーフィ、メキー・ファイファー
製作国:アメリカ
製作年:2002年
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