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vol.177 『ニュースの天才』 by 相原拓


4月のテーマ:NEW

STAP細胞の論文問題を巡るニュースが世間を騒がせている。STAP細胞が「ある」のか「ない」のかは、僕などには到底分からないが、それよりも会見を見て、強く感じたのは報道陣の異様なまでの熱気だ。だからこそというわけでもないが、今回はメディアという世界に魅了され過ぎ、人生を踏み外してしまった男の悲しい物語、『ニュースの天才』を紹介したい。

時は90年代。アメリカで最も権威ある政治雑誌『The New Republic』の最年少ジャーナリスト、スティーヴン・ダラスは天才的な取材力と執筆力で特ダネを連発し、みるみる編集部で頭角を現わす。エース記者として業界でも有名になり始めるスティーヴン。しかし、ある日、彼の成功に嫉妬したライバル誌の記者が彼の過去の記事に疑いの目を向ける。記者の鋭い追及によって、次々と明らかになる真実。スティーヴンの記事に登場する人物や会社はもちろん、取材ノートに書かれた関係者の電話番号やメールアドレス、ウェブサイトまでが実は巧妙な手口によって捏造された情報だったのだ。やがて編集長や会社の上層部からも記事が真実であることを証明するよう求められたスティーヴンは、問題の記事だけでなく自分が今までに書いた41本の記事のうち、実に27本の記事が創作であったことを認め、解雇される。実話とは思えないほど出来すぎたストーリーのようだが、絶妙な脚本と演技で最後まで飽くことなく惹きつけられる。

翻訳もジャーナリズムも"言葉を売る"仕事。編集者が記者の原稿に容赦なく赤入れをする描写や、情報の裏取りができていない記者がダメ出しを食らうシーンには思わず"あるある"とうなずいてしまう。そんなシーンが満載なので、翻訳者目線で観ると更に楽しめる映画だと思う。もっとも楽しい反面、身の引き締まる思いのほうが強いかもしれないが、そういう意味でも翻訳者さんに是非オススメしたい1本だ。


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『ニュースの天才』
監督:ビリー・レイ
出演:ヘイデン・クリステンセン、ピーター・サースガード
製作国:アメリカ/カナダ
製作年:2003年
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